『あえて危険な道をとる』

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岡本太郎

人々は運命に対して惰性的であることに安心している。これは昔からの慣習でもある。無難な道をとり、皆と同じような動作をすること、つまり世間知に従って、この世の中に抵抗なく生きながらえていくことが、あたかも美徳であるように思われているのだ。

徳川三百年、封建時代の伝統だろうか。ぼくはこれを「村人根性」といっているが、信念をもって、人とは違った言動をし、あえて筋を通すというような生き方は、その人にとって単に危険というよりも、まるで悪徳であり、また他に対して不作法なものをつきつけるとみなされる。これは今でも一般的な心情だ。
ぼくはいつもあたりを見回して、その煮えきらない、惰性的な人々の生き方に憤りを感じつづけている。

ぼくが危険な道を運命として選び、賭ける決意をはっきり自覚したのは25歳のときだった。パリで生活していた頃だ。絵描きは絵の技術だけ、腕をみがけばいいという一般的な考え方には、ぼくはどうしても納得できなかったのだ。
しかしそれは極めて危険な問いだ。芸術ばかりではない。他の部門のあらゆる専門家、さまざまの企業内の社員でもみんなそうだと思うのだが、この道一筋、ただ自分の職能だけに精進すれば尊敬もされる、報われもする。それを根本的に疑ったり、捨ててしまえば生きてはいけない。食ってもいけないということになる。
与えられた枠からはみ出して、いわば無目的的に自分を広げていくとすれば、その先は真暗な未知、最も危険な状況に落ち込むことを覚悟しなければならない。それは極端にいえば死を意味する。残酷な思いで、迷った。

ぼくはごまかすことができないたちだから。そして…いまでもはっきりと思い出す。ある夕方、ぼくはキャフェのテラスにいた。一人で座って、絶望的な気持ちで街路を見つめていた。うすい夕陽が斜めにさし込んでいた。「安全な道をとるか、危険な道をとるか、だ」あれか、これか。どうしてその時そんなことを考えたのか、いまはもう覚えていない。

ただ、この時にこそ己に決断を下すのだ。戦慄が身体の中を通り抜ける。この瞬間に、自分自身になるのだ、なるべきだ、ぐっと総身に力を入れた。「危険な道をとる」いのちを投げ出す気持ちで、自らに誓った。死に対面する以外の生はないのだ。その他の空しい条件は切り捨てよう。そして、運命を爆発させるのだ。

藤原和博氏は、ITやAIの大きな変化により、10年後には多くの仕事がなくなるという。その激動の時代を生き抜くには、自分の専門分野とは別の分野に1万時間を投じよ、という。現在の自分の専門分野と併せてまた別の分野でもプロになると、かなりレアな人材になるからだ。そして、さらにもう一つまた別の分野、すなわち3つの分野のプロになると、ほとんどマネされない究極のレア人材となり10年後、20年後でも食べていけるという。
それが、岡本太郎の言う「枠を取り払う」ということ。そして、「危険な道をとる」こと。

もし、仮に自分がもう年配になっていて、危険な道をとることができないなら、せめて必要なことは、若者たちの新たな挑戦や、突拍子もないアイデアをつぶさないことだ。足を引っ張らないことだ。そして、応援したり、後押ししたりすることだ。
世界に類をみない革命、明治維新を成し遂げたのは20代や30代の若者たち。しかし、忘れていけないのはその裏には、彼らを認めたり、応援した、年長者や老人たちがいたから。あえて危険な道をとる人たちには、未来を切り拓(ひら)くパワーがある。

エンジンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾より

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「女性にも長生きリスク」

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宮木由貴子

長寿な人が増えたが、一方で60~70代で死亡する人も多い。100歳を超えた母親の70代の子供が、癌などの病気で母親よりも先に亡くなるケースも増える。
子供に老後を頼るどころか、子供に最期を看取ってもらうのも叶わなくなる。女性は長生きする分、経済的な側面でリスクが大きい。

不安を解消するには、50~60代であっても、積極的に就労するなど、経済的な備えをする必要がある。
子供に先立たれると、長い老後の支えになるのは、家族以外の他人となる。

今の高齢者世代は、他人が家に入るのを嫌う傾向がある。外部サービスを上手に使うなど他人の力を借りながら生活する習慣を作った方が良い。家事や育児、介護に関わる仕事などを通じて、サービス提供者の立場に立つ事で、将来、自身がサービスを受ける側になった時の抵抗感や心理的な障壁を減らす事もできる。

長寿社会の懸念は、高齢世代を支える現役世代にシワ寄せが行く事。介護離職など現役世代の就労継続に支障をきたすようになると、彼ら自身の老後の経済基盤が揺らぐ。高齢者が長く自立して生活する事は、次世代、さらに次の世代を守る事に繋がる。

エンジンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾より

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