細胞に学ぶ人生の意味

Pocket

 福岡伸一

生命現象は創発のかたまりだ。個々の細胞はそれぞれ、分解と合成、酸化と還元、吸収と排出を粛々と行っているに過ぎない。

がしかし、ひとび細胞が集合すると、とたんに特異的な形態や運動が生まれる。それぞれの細胞に差異や個性はない。形態も内容も同じだ。細胞はこれから何にでもなり得るけれども、まだ何にもなり得ず、自分の未来も見定められない、完全な未分化状態にある。
それぞれの細胞が持つDNAも、その細胞が将来何になるのか、指令が書かれているわけではない。DNAには細胞で使われるタンパク質の設計図が書き込まれているだけで、未来や運命が記されているわけではない。

しかし、この時点で、細胞たちは極めて重要なことを行っている。顕微鏡で観察すると、細胞の塊は互いに密着し、たえず細かく震えながら、おしくらまんじゅうをしている。実は、細胞たちは互いに自分の周りの空気を読んでいるのである。そして細胞間で交信している。
この会話が細胞内に伝えられ、その結果、それぞれの細胞の設計図において、どの部品が使われるべきなのかが選択される。こうして細胞の個性が決められていく。細胞の運命は、細胞内にあらかじめ宿っているわけではなく、細胞と細胞の相互作用によって初めて決定される。

つまり、生命の創発は、要素の中にあるのではなく、要素と要素の間から生み出されているのである。これは私たちの人生にも似ている。自分が何者であるかの答えは、自分の中にあるのではなく他者との関係性にこそあるのだ。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

Pocket