『日本一働きたい会社』

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LIFULL人事本部長、羽田幸広

「アメリカの怪物、『ザッポス』を見学しに行こう」
ということになりました。

オンラインの靴販売業を営むザッポスは、
徹底した顧客サービスが有名で
熱狂的なファンをもつ企業です。
その企業文化を支えているのは、高い従業員満足度です。

『ザッポスの奇跡』(石塚しのぶ著)を読んで
感銘を受けていた私たちは、
「日本一働きたい会社」を目指している自分たちにとって、
きっと学びが多いだろうと考えたのです。
7人は、意気揚々とネバダ州にある
ザッポス本社に向かいました。

社是に「利他主義」を掲げ、ユーザーのことを第一に考えて
仕事をしていましたので、
私たちもそれなりに「やれている」感というか、
自負はありました。
「日本一働きたい会社プロジェクト」も
順調に進んでいましたし、
焦燥感に駆られたというよりは、
純粋に楽しみな見学でした。
しかし、ザッポスを訪問してみたら、
そんな自信が粉々に打ち砕かれました。

ザッポスは、私たちの想像をはるかに超えていたのです。

従業員一人ひとりがそこで働くことに誇りと喜びを感じ、
与えられた大きな裁量を利用して、
顧客や仲間のために自発的に行動している…
それが、本当に見ただけで、よくわかりました。

一般的に効率性を重んじるはずのコールセンターでは、
顧客の相談に親身になって応えることが
重要だという考えから、
長時間通話した人(当時の最長通話記録は8時間くらい)
が称えられていました。

また、何人かの社員にインタビューしましたが、
みんな心底楽しそうに働いていて、
人も場も、間違いなく輝いていました。

彼らの行動指針であるコアバリューの1つ目は、
「サービスを通して、WOW!(驚嘆)を届けよ」ですが、
社員みんながそれを見事に実行していました。

あまりにすごすぎて、思わず笑いがこみあげてきたのを
今でもよく覚えています。
自分たちと比べたら、それはもう、
メジャーリーグと高校野球くらいに差がありました。

それこそ「WOW!」いやそれどころではない
大きな衝撃を受けた私たちは、
訪問後、宿泊していたラスベガスのホテルの一室に
集まりました。
「…これはやばい。差がありすぎる」
ラスベガスにいながらショーも見ず、
スロットマシンにも触れず、
部屋に閉じこもって夜遅くまで意見を交わしました。

ザッポスから強烈な一撃を(勝手に)食らった私たちは、
「自分たちは経営理念を実現する意志がまだまだ弱い」
という現状を認識し、
これを打開するためには
根本的に何かを変える必要があるという結論に至りました。

海外研修から戻ると、その成果について
役員を前にプレゼンテーションします。
そこで私たちが提案したのが、
「ビジョンプロジェクト」の発足でした。
これまでとは比較にならないくらいの本気度で、
経営理念の「実現」を目指す会社に変革していくためには、
できるだけ多くの社員が関わる、
会社横断のプロジェクトチームが必要だと考えたのです。

そのプロジェクトチームのメンバーには、
本気で会社を変えたいと願う、
熱い想いをもった有志の社員を集めたいとも提案しました。
自分たちが目指す方向や目標を同じくする世界の一流企業、
その実態を目の当たりにすることで、
自分たちの目の色が変わったのがわかりました。

その後、「ビジョンプロジェクト」は、
役員から立ち上げの許可をもらい、発足しました。
そして、各部門で大まかに与えられていたミッションを、
メンバー全員で話し合って具体的に決めた。
そうすることで、
「会社から与えられたビジョン」ではなく、
「私たちのビジョン」になるからだ。

会社の経営理念は、「常に革進することで、
より多くの人々が心からの
『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」。
人事本部のビジョンは「世界で最も情熱溢れる会社を創る」。

これからの時代、日本はますます人口が減り、
働き手がいなくなる。
多くの企業が働き手から選別される時代に入った。
いくら業績がよくても、そこに働く人がいなかったら
会社は成り立たない。

それは、働く環境や報酬や休日、といった諸条件は
もちろん大事だが、
「やりがいがある」とか「会社の雰囲気がいい」、
「会社が好き」、「自己成長ができる」といった、
モチベーションや、心を突き動かす何かが
非常に大きく影響する。

いい会社には、いい人材が集まる。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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