『人類を変えた素晴らしき10の材料』

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マーク・ミーオドヴニク

われわれはつい、ビジネスのすべてが人間の頭の中から生まれるように思いがちですが、実際には、物質や技術の性質・制約条件がイノベーションを生むことが多い。
転位とは金属結晶内部の欠陥、それさえなければ完璧な原子の結晶配列に存在するずれのことで、本来ないはずの原子レベルの分断である。聞こえは悪いが、実はたいへん有用だ。転位があるおかげで金属は道具、刃先、そして究極的にはカミソリの刃に用いるたいへん特別な材料となっている。転位があるからこそ金属結晶は形を変えられるゼムクリップを曲げるとき、曲がっているのは実はこの金属結晶である。結晶が曲がらなかったら、ゼムクリップはもろくも棒のように折れるだろう
酸化クロムは透明で硬い鉱物で、鋼鉄にとてもよく付着する。つまり、剥がれ落ちないし、そこにあるとは気づかれない。実は、酸化クロムは目に見えない科学的な保護層を鋼鉄の表面全体につくる。さらに、今日知られているように、この保護層には自己回復力がある。あなたがステンレス鋼をひっかいて保護層を破っても、層は再び形成されるのだ。スプーンに味がしないのはあの酸化クロムの保護層のおかげであり、その理由は舌が鋼鉄にじかに触ることがなく、唾液が鋼鉄と反応できないからである
コットン紙は最高の偽造防止技術の一つでもある。木を材料とする紙を使った偽造が簡単だからだ。コットン紙特有のきめはATMがチェックしているし、手触りの違いについては人間もかなり敏感である。怪しい紙幣に出くわしたら、それがコットン紙かどうかを確かめられる簡単な化学テストがある。このテストはヨウ素ペンを使って多くの店で行われている。セルロースでできた紙幣にヨウ素ペンで何か書くと、ヨウ素がセルロースに含まれるデンプンと反応して顔料ができて黒く見える。同じペンでコットン紙に何か書いても、ヨウ素が反応するデンプンがないので何の痕跡も浮かび上がらない
どんな化学反応でもそうだが、材料の割合が不適切だと反応が台無しになる。コンクリートの場合、加える水が多すぎると反応相手であるセメント粉末のケイ酸カルシウムが不足し、水が構造物の中に残ってもろくなる。同じように、加える水が少なすぎると反応しないセメントが残り、やはり構造物が弱くなる鉄筋コンクリートに曲げ応力が加わると、鋼鉄の内部骨格がそれを吸収し、大きなひびが入るのを防ぐ。鉄筋コンクリートはこの二種類の材料が一体化したものであり、コンクリートを専門家だけの材料から史上最も用途の多い建材へと変える

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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