澁澤栄一 論語と算盤

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教育と情誼の章より

世間一般の教育のやり方を見ると、
単に知識を詰め込むことが重視されていて、
徳育の面が欠けている。
また、学生の気風を見ると、
今一息、勇気と努力と自覚に欠けている。
文明の進歩とは、政治、経済、軍事、商工業、学芸などが、
ことごとく進んでいてこそ実現できるものだ。

しかし、日本では商業という文明の一大要素が
長いあいだ顧みられずにいた。
近年、ようやく実業教育が注目されるようになったが
その教育方針は残念ながら
他の教育方法と同じで理知に偏っている。
規律、人格、徳義なとが重視されていない。

実業界に立つ者は、そうしたことを踏まえたうえで
さらに自由ということを学ばねばならない。
軍隊のように上官の命令を待っていては、
とかく好機を逃がしやすいのが実業の世界なので、
自由に商売をしてこそ発展が望めるものだからだ。

しかし、その結果、誰もがただ知識を詰め込み、
利益を求めることを私は心配している。
身分が上の者も下の者も、みんなが自分の利益だけを
追い求めて道徳などが全く顧みられない状況に
陥ったら大変だ。

孟子は、軍事力による支配や論理が優先された
戦国時代に、道徳による王道政治を理想として説き、
様々な戦国諸侯と対話をして、
利益を話題にする王を諫めた。

どうにかして日本が憂える状況にならないようにと、
私は知識と道徳を並行して行う実業教育の
啓蒙に長年注力している。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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