『こころのチキンスープ 7』

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ジャック・キャンフィールド

去年のクリスマスはとてもつらかった。家族も親友も、はるか遠い故郷のフロリダにいた。私は一人、寒いカリフォルニアで働き続け、体調も崩していた。私の職場は、航空会社のチケットカウンター。その日はクリスマス・イブ。私は昼夜のダブルシフトをぶっとおしで勤務していたが、夜も九時をまわり、内心みじめでならなかった。

当番のスタッフは2,3人いたものの、乗客の姿はまばらだった。「次のお客様、どうぞ」カウンター越しに声をかけると、柔和な顔をした老人が杖をついて立っているのが見えた。老人がそろりそろりとカウンターまで歩いてくると、聞き取れないほどの小声でニューオリンズまで行きたいと言った。

「今夜は、もうそっちへ行く便がありません。明日までお待ちいただくことになりますが」と言うとその老人はとても不安げな顔になった。「予約はしてあるのですか」「いつ出発のご予定だったのですか」などと聞いてみたが、聞けば聞くほどいよいよ困った様子で、ひたすら「ニューオリンズに行けって言われたから」と繰り返すばかり。

そのうち、いくつかのことが分かってきた。老人はクリスマス・イヴだというのに、義理の妹に「身内のいるニューオリンズに行きなさい」と車に乗せられ、この空港の前で下ろされたらしい。彼女は老人に現金をいくらか持たせ、「中へいってこれで切符を買いなさい」と言って立ち去ったのだ。

私が「明日もう一度来ていただけますか」と聞くと、「妹はもう帰ってしまったし、今晩泊まるところもない。このまま、ここで待つことにします」と言った。これを聞いて、私は自分が恥ずかしくなった。私はクリスマスの夜にひとりぼっちのわが身を憐れんでいた。

でも、クラレンス・マクドナルドという名の天の使者が、こうして私の元につかわされ、ひとりぼっちとはどういうことか、本当の孤独とはどんなものかを教えてくれている。私の胸は痛んだ。

私はただちに「ご安心ください。万事うまくやってあげますからね」と彼に伝え、顧客サービス係に明朝一番の便を予約してもらった。航空運賃も年金受給者用の特別割引にし、差額は旅費の足しにしてあげることができた。一方、老人はくたびれ果てて立っているのも辛そうだ。

「大丈夫ですか」とカウンターの向こうに回ってみると、片脚に包帯を巻いている。こんな脚で、衣類をぎっしり詰め込んだ買い物袋を下げて、ずっと立ちつくしていたのだ。私は車椅子を手配し、みんなで老人をその車椅子に座らせたが、見ると足の包帯に少し血がにじんでいる。「痛いですか」と聞くと、老人は「心臓のバイパス手術をしたばかりでね。そのために必要な動脈を脚から取ったんだよ。」なんということだ!老人は心臓のバイパス施術を受けたばかりの体で、付き添いもなく、たった一人で!

こんな状況に出くわしたのは初めてだった。何をしてあげたらいいのだろう。私は上司の部屋に行き、どこかに老人を泊めてあげてほしいと相談した。上司はすぐさま、ホテル一泊の宿泊券と夕食と朝食の食事券を出してくれた。カウンターに戻った私は、ポーターにチップを渡して「この方を階下までお連れして、シャトルバスに乗せてあげて」と頼んだ。車椅子の彼の上に身をかがめて、ホテルのこと、食事のこと、旅の段取りをいまいちど説明しながら、彼の腕をとんとんと叩いて励ました。

「すべて上手くいきますからね。」いざ出ていく段になると、老人は「ありがとう」と頭を下げて、泣き出した。私ももらい泣きしてしまった。

後になって、上司の部屋に礼を言いに戻ると、彼女はほほえんでいった。「いいわねえ、こういう話。その人は、あなたのためにやってきたクリスマスの使者だったのよ。」《レイチェル・ダイヤ―・モントロス》

エンジンオイル、OEMの仲間の勉強塾より

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