『リーダーの脳科学』

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黒川伊保子

リーダーの条件とは、周囲を笑顔にする力。つきつめると、案外、それしかないかもしれない。

かつて、写真家の白川由紀さんが、そんなことを私に教えてくれた。アフリカ大陸を単身歩き、見たこともないような鮮やかな色の空や大地を撮り続けていた白川さんは、そこでたくさんの集落を訪れた。東洋人の若い女の子は珍しいらしく、どの集落でも親切にされ、晩餐に招待されたという。ある集落では若いリーダーが、別の集落では長老のリーダーが彼女を迎えてくれた。華美な装飾を身に付けたリーダーもいれば、誰よりも質素な服装のリーダーもいた。豊かな声量の雄弁なリーダーもいれば、寡黙なリーダーもいた。
記号論的な条件で言えば、「リーダーたるもの」に類型などないかのように見えたが、実際には、紹介される前に、誰がリーダーなのか、白川さんには必ず分かったという。それはね、と、彼女は微笑んだ。「その人がその場に入ってきたとき、そこにいる全員が、嬉しそうな顔になるから」

私は、企業コンサルタントという立場上、日々、多くのリーダーに会う。率先して先頭を走るタイプもいれば、おっとりと構えて周囲に「この人をなんとかしてあげたい」と思わせるがために、部下の潜在力をじっくり引きだすタイプもいる。緻密さ、つかみのよさ、臨機応変さ、バランスの良さ、あるいは、突出した何か…リーダーのリーダーたるゆえんは、リーダーによってさまざまに違い、ふたりとして「同じタイプ」と確信するリーダーに会ったことはない。

しかし、どの“名将”にも共通なのは、周囲を嬉しそうな顔にする力の持ち主であることだ。しかも、その力は、彼の肩書きを知らない人にも及ぶのだ。一見のレストランに入っても、“名将”は必ず大切にされる。店の人の表情が、接待用の笑みから、嬉しそうな笑顔に変わるのがわかる。周囲を笑顔にする力。これは、ときに奇跡を作りだす。運がいいと言われる人に、必ず備わった力でもある。
周囲を笑顔にするのは、実は、簡単なことなのだ。自分が、嬉しい気持ちでそこにいればいいのである。あらゆることに好奇心を働かせ、そこにいることを楽しむ。ただ、それだけだ。しかしながら、きっと、「常に、そこにいることを楽しむ」こと自体が、一般には難しいのに違いない。

■「「周囲を笑顔にする力」の反対は「周囲を不機嫌にさせる力」ゲーテは、「人間の最大の罪は不機嫌である」と言った。ということは、「人間の最大の功績は周囲を笑顔にする力」だ。一人、その人が入っていくだけで、その集まりがパッと明るくなり、笑顔になる。まさに、リーダーそのものだ。

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