『何もしない方が得な日本』

Pocket

 同志社大学教授太田肇

何もしないことが得になる近年の風潮の広がりが心配だ。
例えばコロナを理由にしたイベントの中止など、
何もしないことによる安全の確保=安全地帯への逃げ込みが
目立つ。そこには「出る杭になって打たれたくない」という
心理が働いている。
つまり、個人の利益や保身のためには、
何も積極的にやらないことが一番いいという考え方だ。
これが連鎖すると「中止ドミノ」が生まれて来る

こうした回避行動は「エクスキューズ症候群」とも呼べる。
冷静な計算に基づく確信的な不作為であり、
社会の仕組みやシステム造りの原点に構造的な欠陥がある。
一度失敗してしまうとゲームが終わってしまう
「トーナメント型キャリア」も要因の1つだ。
そこでは組織の人間関係も挑戦を阻害する要因になっている。

こうした消極的率主義が蔓延するようになった背景には、
日本社会が一種の共同体に近い性質を備えているからだ。
閉鎖的で同質的な組織は「ゼロサム」でパイを奪い合う。
さらにメンバー間で大きな差を付けない
平等性が内在しているので
人間関係が固定化され、
メンバー同士の濃い関係が組織運営に反映される。
そうした組織には、
存続し繁栄していくための意思や構想が欠けており、
挑戦を阻害する隠れたコストなっている。

では、こうした社会を変革するにはどうすればいいのか。
「する方が得になる仕組みを作ることだ」
まずは、挑戦する人が自分の利益を脅かされない
仕組みを作るための防波堤を作る。
そのために、集団から個人を分ける。
次に、既存の組織や制度の枠外に
別の制度を設けることで「新しい橋」を架ける。
さらに、その橋を渡らせるために
各種のインセンティブを用意して人々を誘導し
先導役としての異質な人材を活用することが鍵になる。

何もしない先には、絶望的な未来が待ち受けており、
結果として自分の利益に反することになる。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

Pocket