『漫画 君たちはどう生きるか』

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吉野源三郎

コペル君、いま君は、大きな苦しみを感じている。なぜそれほど苦しまなければならないのか。それはね、コペル君、君が正しい道に向かおうとしているからなんだ。
「死んでしまいたい」と思うほど自分を責めるのは、君が正しい生き方を強く求めているからだ。

君は、コペルニクスの地動説を知ってるね。コペルニクスがそれを唱えるまで、昔の人はみんな、太陽や星が地球のまわりを回っていると、目で見たままに信じていた。
これは、一つは、キリスト教の教会の教えで、地球が宇宙の中心だと信じていたせいもある。しかしもう一歩進んで考えると、人間は、いつでも自分を中心として、ものを見たり考える性質をもっていると分かる

コペル君、人間は、いうまでもなく、人間らしくなくっちゃあいけない。人間が人間らしくない関係の中にいるなんて、残念なことなんだ。たとえ「赤の他人」の間にだって、ちゃんと人間らしい関係を打ちたててゆくのが理想だ
なるほど、貧しい境遇に育ち、小学校を終えただけで、あとはただ体を働かせて生きてきたという人たちには、大人になっても、君ほどの知識をもっていない人が多い。
幾何とか、代数とか、物理とか、中学以上でなければ教えられない事柄については、ごく簡単な知識さえもっていないのが普通だ。ものの好みも、下品な場合が少なくない。こういう点からだけ見てゆけば、君は、自分の方があの人々より上等な人間だと考えるのも無理はない。
しかし、見方を変えて見ると、あの人々こそ、この世の中全体を、がっしりとその肩にかついでいる人たちなんだ。君なんかとは比べものにならない立派な人たちなんだ
僕たちは、一応はその人々に頭を下げた上で、彼らがその非凡の能力を使って、いったい何をなしとげたのか、また、彼らのやった非凡なこととは、いったい何の役に立っているのかと、大胆に質問してみなければいけない。
非凡な能力で非凡な悪事をなしとげるということも、あり得ないことではないんだ
世間には、悪い人ではないが、弱いばかりに、自分にも他人にも余計な不幸を招いている人が少なくない。人類の進歩と結びつかない英雄的精神も空しいが、英雄的な気魄を欠いた善良さも、同じように空しい
尊敬の基準はもはやお金や社会的地位ではない。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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