ブレインストーミングのケーススタディ

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別府 俊幸

旅行用デスクトップライトのブレインストーミング

背景

M電子工業の開発課長E氏は、
情報の収集と製品の売り込みのために世界各地を旅している。
M電子工業は小さなメーカーであり、
出張旅費も限られるため、彼は高級ホテルには宿泊できない。
ある夜、E課長は訪問予定のZ社の資料に目を通そうとするが、
ホテルの照明は日本のビジネスホテルと比べて暗い。
そして安価なホテルでは、デスクはあっても
デスクトップライトのないことが多い。
バスルームが明るければ弁座に腰掛けて資料を見るのだが、
このホテルはバスルームも明るくない。

「うーん……これではアルファベットの資料が読めない」
栄養ドリンクを飲みながらE課長は考えた。
「24時間戦うジャパニーズ・ビジネスマンには、
アタッシュケースに入れて持ち運びできる
デスクトップライトが必要だ」

ブレインストーミング第1ラウンド

帰国したE課長は後輩エンジニアF氏、営業企画のU女史、
製造課のS氏を集めてブレインストーミングを開いた。
集まったメンバーに説明する。

「今回のブレストのタイトルは
『旅行用デスクトップライト』だ。
必要な機能や性能、使い方、形状やその他、
思いつくことを何でも言ってくれ。
いつも言うようにブレインストーミングは、

(1)できるだけ多くのアイデアを出すことを目的としている。
先輩や後輩だなんて遠慮するな。
アイデアをたくさん出してくれ。どれだけ出すかが勝負だ。

それから、
(2)馬鹿げたアイデアでも出してくれ。
不可能なアイデアだと思っても遠慮するな。
10年前の人たちには、スマホだって考えられなかった
アイデアだ。

それと注意事項だが、
(3)人の意見は、絶対に批判するな。
欠点の探し合いになると、アイデアは出なくなる。
最初から完璧なアイデアなんてあるはずがない。
欠点を改良して製品をデザインするのがエンジニアだ。
でも、アイデアがなければ何も始まらない。

だから、
(4)自分のアイデアや他人のアイデアを組み合わせて、
発展させるように考えてくれ。
意外なものを結びつけたり、組み合わせたりすることによって
新しい製品が生まれる。思考を展開することが重要だ。

いいかな? では始めよう。
まずは、それぞれアイデアをメモに書き貯めてくれ」

E課長は“貼って剥がせるメモ用紙”を全員に配り、
自分のアイデアもメモに記します。
そして3分後、ディスカッションを始めました。

E課長「では、F君からメモを読み上げてくれ」
F氏「必要なエリアを照らせることですね。
ペンライトを横に照らしながらでは、効率悪すぎますよ」
S氏「そうですね。A4が一度に照らせることは、
最低限必要ですね。
そうすると、30cmくらい上から照らせばよいでしょう」
U女史「30cmって、けっこう近いわよ」
S氏「じゃあ40cm」
U女史「まあ、それくらいね。それより、いっそのこと
天井からぶら下げたら」
F氏「そうだ、ドローンのように飛ばせば良い!」
S氏「それはいい!……だけど、誰が設計するんです?」

U女史「飛ばしても良いけど、静かでなくちゃね。
夜に使うんでしょ?」
E課長「そうだな。隣の部屋から文句を言われてはかなわん。
じゃあ、Uさん。次のメモを読んで」

U女史「持ち運びが簡単なコンパクトサイズ。
だから、軽くなきゃ。折りたたんでも良いわね」
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ブレインストーミング第2ラウンド

30分後。E課長はブレインストーミングを
第2ラウンドへと進めます。

E課長「そろそろアイデアも出尽くしたようだな。
では、みんなが書いてくれたメモを一つずつ読むから、
疑問があったら言ってくれ
……必要なエリアを照らせる
……A4が一度に照らせる……」
S氏「だいたいは縦長に置くけど、
ときどき横長の表があったりするね。
縦でも横でもA4サイズを照らせるのが良いね」

E課長「40cmくらい上から照らす……天井からぶら下げる……
ドローンのように飛ばす……」
U女史「ドローンもいいけど、上から風が吹いてきて
資料も飛んじゃうわよ(笑)」
F氏「Uさん、批判するのはダメですよ(笑)」
U女史「ごめん。だったら飛行船は、どう?」

E課長「静か……」
F氏「ファンが回ってると、夜は気になりますね」

E課長「コンパクトなサイズ……それから、軽い……」
F氏「コンパクトって、持ち運び時のことですよね」
U女史「使うときには普通の電気スタンドくらいの
大きさがあった方が良いわね。
でも“アタッシュケースに入れて”ってあったから、
隙間に入ってもらわないと」
F氏「小型の折りたたみ傘くらいに折りたためば良いですね」
U女史「それじゃあ入らないわよ。ケータイとは言わないけど、
ケースに入れたスマホくらいにはなってほしいわ」
F氏「スタンドも含めてその大きさに収納するのですか」
U女史「そうよ。トローリーバッグのハンドルみたいなのが
ピョンと跳びだして伸びるのが良いわね」
S氏「で、重さはどこまで許してもらえます?」
U女史「それもスマホ。と言いたいところだけど、
缶コーヒー1本分ね。もちろん短い方の缶よ」
S氏「220グラムですか……」
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そしてブレインストーミング第2ラウンドも終わりました。

E課長「みんな、どうもありがとう。
じゃあF君、アイデアをまとめてくれよ」
F氏「任せといてください。KJ法で行きますよ」

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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