恋と日本文学と本居宣長(丸谷才一)を読んで

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宇野重規、政治学者

本居宣長というと、古事記をめぐる研究をしたとか、国学思想を大成したとか、難しい人と思いがちだ。
丸谷さんは違う。宣長を普通の人間として描き出す。

宣長は、好きになった女性への思いを断ち切れない。そんな自分は間違っているのかと思い悩んでいる。その比較対象となるのが、中国だ。
中国では、儒学を学び指導者になろうという人々が、詩を作ってきた。だから、詩には国への思いや政治的苦悩が多い。恋愛の話は、あまり出てこない。
これに対して、宮中に始まる日本の詩は、恋愛抜きにはありえない。この違いは何か。

丸谷さんは、このような問題意識の先駆者として宣長を見る。
宣長は自分の悩みもあって、「恋を事由に歌える日本の方がいい!」という結論に達する。
「もののあはれ」の評価や、中国の「からごころ」批判もそこから来ている。
結局は、好きな人と結ばれた宣長に対し、「本当に良かった」と丸谷さんは書く。
丸谷さんの議論は、決して思い付きではない。いろいろな論拠を持ってくる。

でも結論は、いつも「こういう風に自由に考えてもいいんじゃない」である。
宣長までも、恋に悩む可愛いおじさんにしてしまう丸谷さんは面白い。
私に、本が自由で楽しいモノと教えてくれた知の巨人だ。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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