「諦める楽しさ」

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隈研吾

すぐに全身麻酔の大手術を受けるが、
人差し指と中指の筋を繋ぎ間違えられ、
利き手を何カ月も動かす事ができなかった。

しばらくして別の医師を訪ね、
6時間に及ぶ再手術。
機能を回復させるため1日8時間のリハビリを
勧められるが「やらない」と即決した。

不思議にも絶望は無く「解放感」すら覚えた。
「右手が動かないならば、
それなりにできることを見つければいい。
受け入れる事、諦める事の楽しさみたいなものを知った。」

バブルの崩壊。
「高度成長を建築家がリードする構図は反転した。
建築は社会の敵だとみられるようになった。
建築家は変わらないといけない。
前の世代とは対照的な受け身の態度を取る事が
自分の存在理由になるのではないかと思った。」

「とりあえず心配事を、全て置いて地方へ。
戻れば次の1週間をどうにか乗り切り、また旅をする。
5年先の事を計画したって、人生は思い通りにならないと
思ったら、自由になれた。」

地方の小さな仕事を受ける。
予算は僅か。
自由に使えるのは地場の素材、職人の技、そして時間。
誰も試みた事の無い方法を模索する中で、
「従来の方法に囚われていては、
コピー&ペーストの建築しかできないと気が付いた。」

自然素材との対話は、
古い木造の実家の改修案を家族で考えたり、
大工の仕事を見たりした少年時代の記憶も蘇らせた。

スタイリッシュなメタルでも、
流行のコンクリート打ち放しでもない
自分の道は、そこから開けた。

「どんな小さな仕事でも楽しんでやれる
自身が点いたことが、
あの転機で得た最大の幸せだ。」

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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