なぜ好き嫌いで経営ができるのか

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中里スプリング 中里良一社長

「取引先の基準は好き嫌いで社員が選ぶ」という
“好き嫌い経営”。

○見栄を張らない

経営者はみんな見栄を張りたがる。
売り上げは大きい方が、設備も高い機械があった方が、
社員も20人よりは50人いた方がかっこいいと思う経営者には、
使い捨てにされるんだよ。
売り上げにしろ利益にしろ、右肩上がりを目指す必要はない。
町工場なんて本来、儲かったって損したって、
どちらにしてもたいしたことないんだよ。
だから見栄を張らずに、
自分が決めた道を決めた速度で進めるかということが重要。

たとえれば、大企業は高速道路を走っているようなものだよね。
うちみたいな町工場は、
高速道路で大企業や親会社の後をついて行ったってダメだよ。
整備不良のちっちゃいエンジンしか積んでいないから
危なっかしくてしょうがないし、
親会社からみたら足手まとい。
先に行くことだけが正解じゃないんだから、
町工場は高速道路に必ずある側道を、ちょっと走ればいい。
側道を時速30キロで走るから、
「ああ、稲刈りしているんだなあ」「花が咲いているなあ」って
見える景色があるんだよ。
自分が見栄を張るために仕事をしている経営者は、
社員を幸せになんかしてやれっこない。

○取引先は増やす

2年前に全国47都道府県すべてにお客さんを持てたから、
今は全国の約810ある市と特別区すべてに
取引先を持つことを目標にしている。
他の会社みたいに売り上げや利益を増やすことは考えない。
1回でも1万円でも、うちのバネを買っていただければ
お客さんとしてエントリーする。
まだ400以上の市が残っているから
最低でもあと400社以上必要で、
47都道府県すべてに取引先を持つときには
1,600社と取引することになるけれど、
実際には、そんなんじゃ足りない。
相当頑張らなきゃできないけど、その方が楽しめるじゃない。

どうしてこんなことをやっているのか。
それは好き嫌いで仕事をするため。
たくさん取引先を持っていれば、
好きな会社をベスト100位までピックアップしても、
1社1%ずつの取引でうちの売り上げ100%が見込めるでしょ。
それが究極の目標。

この会社で新規営業をするのは僕だけ。
一番プライドが傷つく営業は、経営者の仕事なの。
ものを作る仕事は一番プライドを保てるから、
それは社員がやればいい。
僕がお客さんを取ってきて、
あとは事務所と現場の社員がペアになって
好きなお客さんを担当するのがうちのスタイル。
20人程度の町工場なら、
本当は2、3社の取引先に深く入れば食べていけるよ。
でも、僕はお客さんを取ってくることが苦にならないから、
今のうちに取引先を増やせるだけ増やしておく。
そうすれば、この会社は誰が継いでもいいけれども、
次は誰がやったって営業なんかしなくてもよくなる。
好きなお客さんを選んで仕事ができる。
だから僕は、数としては必要以上に
新しいお客さんを取ってくるけど深くは入らない。
遠距離外交を意識して、
お客さんとは「玄関を開けただけ」くらいの
付き合いにしておくんだよ。

○損得よりも商道徳

選ぶだけのお客さんを持っていれば、
嫌なお客さんに我慢する必要もなくなる。
中里スプリングも僕が入ったときは
15、6件しか取引先がなかったけど、今は100倍ある。
これだけお客さんがいれば、社員は我慢しないで、
それぞれ守りたいお客さんとだけ仕事ができるでしょ。
「嫌なことも我慢するのが仕事」なんて言葉を使いたがる
経営者とか管理職がいるけど、
だいたい自分で努力するのが嫌なだけ。
社員に我慢させないと
自分が苦労しなくちゃならないから、逃げているんだよ。

でも、うちは儲かる儲からないで
お客さんをお断りしたことは一回もないからね。
尊敬できないお客さんだからやめる、
商道徳に反することをするお客さんだからやめるんであって、
損得は考えない。
好き嫌いが大事なことで、もっとコアなのは善悪。
ほとんどの人は損得勘定ばかりで
善悪もなければ好き嫌いもない。
嫌な仕事を我慢するのだって損得感情によるものだし、
言葉の優しい人とか断定しない人って、
考えていることが汚いんだよ。
いいか悪いかで人を見て、好きか嫌いかで仕事を選ぶ。
それがうちの生き様。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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