ほんの少しの差が大きな差になる

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カクヤスグループ会長、カクヤス社長、佐藤順一

1店舗の商圏は半径1.2㎞でやってみたら配達効率が良く、コストも店頭販売とあまり違わない。そこで、送料を無料にして店頭価格でお届けすることを考えた。しかし、1996年には酒の市場が縮小に転じる。縮小マーケットではたくさん売っても、いつか報酬はもらえなくなる。つまり安売り商法が通用しない。さらに1998年には、酒販免許に関する規制緩和を2003年までに実施すると決まった。宅配の大手やスーパーが酒販免許取得したら、まったく勝てない。これが1990年代後半に私が診ていた市場だ。

カクヤスは配達をやるから景気がいいと知られてしまえば、大手の宅配が参入してくる。それを許せば勝てない。では、大手ができない配達とは何か。私は売り手である私たちの都合を徹底して排除することを考えた。当時の家庭への配達は、当日配達ではなかった。また5000円以上など金額や数量が決められていた。これらをすべて撤廃できないかと考えた。それまで半径1.2㎞の商圏で1時間あたり4.2件の配達ができていた。これならば注文から2時間以内に届けられるという読みもあった。都内23区全域どこへでもを可能にするには半径1.2㎞の商圏を横展開すればいい。この商圏の面積は1.2×1.2×3.14で出る。その面積で都内23区全体の面積を割ると、137という数字が出てきた。

2000年、毎年30店舗ずつの出店を決めた。価格軸ではなく、お届け軸で戦う。天命も「酒 スーパーディスカウント大安」から「なんでも酒やカクヤス」に変更した。酒販面器を持つ酒販店やコンビニを買収して店舗を増やし、2003年には予定どおり23区全域をカバーした。
しかし、当時の経営は厳しかった。価格戦略は結論が早い。安いことを訴求すればお客は入る。でもお届けでの付加価値戦略は時間がかかる。100円高くても宅配を選ぶ人もいれば、5円しか安くないのに店舗まで買いに来る人もいる。宅配が便利かどうかは、そもそも一度使ってみないと分からない。だから時間がかかる。当初、出店から半年で黒字化する予定だったが、実際には3年目にならないと黒字化できなかった。出店計画を進めながら、大きな赤字を抱えることになった。それでも、買収した店にはキャッシュが入るし、その店への売掛金は溜まっていくのでカクヤスの帳簿は傷まない。赤字を垂れ流しながらも、出店を続けられた訳だ。

若手営業スタッフの一言が苦境を救ってくれた。飲食店の中にも、急ぎの時にはカクヤスの店舗で買っているところがある。そこで、従来は倉庫からトラックでルート配達をしていた飲食店向けの業務用配送をルート配達より早い店舗からやってみた。すると大好評だった。飲食店の方が一般家庭よりも、2時間で届くサービス喜んでくれた。十数年やって積み上げた一般家庭むけの売り上げを飲食店むけの売り上げはわずか3年で抜き、会社は黒字化した。

2011年、年商1000億円を達成。2019年、東京証券取引所第2部に上場した。

コロナ禍が襲う。売り上げ構成は一般向け配達が3分の1、飲食店向け配達が3分の1、店舗での販売か3分の1だった。飲食店向けのほとんどが消失してしまった。飲食店向けの穴を家庭向けでカバーすべく、店舗からの宅配倍増計画を策定した。また、酒だけでなく、正午から夕方までの暇な時間には酒と親和性の低い商品、調味料やペット用品、介護用品なども配達する態勢を整えた。それと同時に、飲食店の需要が回復した時に拡大した宅配部門を縮小できないから、これまでの配達とピストン宅配の他に、業務用専門のサテライトの出荷拠点を30か所整備し、ルート、宅配、サテライトの3層物流を実現した。

コロナ禍で30億円もの赤字を計上する中でテレビCMを打つと決めた。コロナ禍で家飲みが増えている今こそ、売り上げを伸ばす時だからだ。コロナ禍を乗り切らないと先は無い。
こんなサービスがあったら顧客は嬉しいよねというものを、まずはやってみようと思う。やってみて数値で検証し、駄目ならやめればいい。他社に大きな差をつけるサービスは、もう、あまり残っていない。でも、でかいことををやる必要はなく、細かいことが大事。ほんの少しの差でお客さんに選んでもらう。その積み重ねがいつか途轍もない差になる。勝ち方とはそういうものだと思う。

エンジンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾より

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