鈴木 喬:エステー取締役会議長兼代表執行役会長(CEO)
売れる商品が、商品開発会議から生まれた試しはない。
会議なのだからコンセプトが必要だ、理屈が必要だ。
それでは売れる商品にはならない。
開発会議を開くと、「買わない人1000人に聞きました」
などという市場調査の資料が出てくる。
買わない人=買わない理由であり、
それが解明できれば買う理由を創れると考えている。
僕は、そもそも市場調査を信じない人間で、
「買わない人に聞いてどうするんだよ」と思っている。
買わない人に買わせるのがマーケティングだと
思っているようだが、
マーケティングの本質は、
固定客をつくり、固定客を維持し、拡大していくことに
あると思っているからだ。
買わない人に買わせるようにするのではなく、
買ってくれる人がいつまでも買い続けてくれるようにする。
だから、買ってくれる人の買う理由を理解し、
買い続けてもらう。
その「無限循環運動」こそ商売の本質なのだ。
だから、「買わない人に買ってもらえるようにするために
革新的な商品が必要だ」などというプレゼンを聞くと、
「なにを言ってやがる」と思う。
そんなことで革新的な商品など生まれたことはない。
マーケッターがやることはまず、市場調査をして、
「こういう色が好きだ」
「こういうパッケージングデザインが好まれる」と突き詰め、
そこに少しの変化を加えて売り出せば
新しい顧客が創造されると考えている。
でも、よくよく見れば、
それは既存商品のそっくりさんをつくっているにすぎず、
おこがましくも革新的と言える代物ではない。
僕は、革新的なデザインや新製品の概念は、
独裁制でないと出てこないと思っている。
独裁で、「誰よりも世の中を見てきた
俺が良いと思っているんだ」
「誰が何と言おうと売ってやるんだ」という
思いがあるからこそ石でも木でも売れるのだ。
アップルは、スティーブ・ジョブズが独裁者で
狂気的とも思える自己執着があったからこそ再生できた。
その感覚は、エステーのトップをやっていてよく分かる。
トップが狂気的でないと商品は売れない。
アケアの消臭芳香剤「消臭力」を開発したときもそうだった。
消臭力は、「しょうしゅう“りき”」と読むことは、
当社の宣伝もあってよく知られている。
しかし、「しょうしゅうりょく」でいいのではないかという
議論があった。
「リョクでは迫力不足。リキでいこう」。
こういう部分にも、こだわりというよりも思いがあった。
人とは面白いもので、今あるものよりも
ちょっと良いものを「すごく良い」と評価し、
ちょっと悪いものを「絶対ダメ」と言う。
人の性のようなものだ。
ましてやまったく比較できるものがないのが提案されると、
良いか悪いかは判定不能なので保身的な発想になり、
絶対に「良い」とは言ってくれない。
だからこそ僕はイノベーションを実現したいのだ。
皆に反対されたり、世間が「絶対にできない、
おかしいんじゃないか」と言うものほど、
絶対に実現してみたい。
役員会のメンバー全員が反対するような商品こそ
開発に力を注ぐ。
これは嬉しくてたまらない。
逆に、全員が賛成するようなものはだいたいがダメだ。
エンジンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾より

