精神科医、和田秀樹

不安なことがあったら、それを1つずつ塗りつぶして、

1点でも2点でもいいから、安心材料に変えていく。

これは、できることはやっておくという意味です。

あれもこれもではなく、かぎられた時間の中で

打つ手は打っておくという意味です。

不安材料をすべて安心材料に変えてしまうという

意味ではありません。

なぜなら、いちばん大事なのは動くことだからです。

実行する、トライアルしてみるということです。

準備に時間をかけてしまうと、

ほとんどのチャンスは逃げてしまいます。

ビジネスの場合でも、たとえばやってみたい仕事があって

そのチャンスを与えられたときに、

「まだ経験が足りない」とか「データが不十分だ」といった

理由でためらってしまうと、他の人間に持っていかれます。

そういう時はむしろ、

「このチャンスがいい経験になるんだ」と考えてしまえば

経験不足なんかは不安材料に入らなくなります。

「データは集まる分だけで十分」と考えれば、

そのまま踏み出すことができます。

もう1つ大事なのは、万全の準備というのは

かえって邪魔になるということです。

経験が豊富、データが十分なら

どんなチャンスでも最良の結果が出るかといえば、

そんなことはありません。

かえって「これはできない」「こういうケースは危ない」

「もっと相手の出方を見たほうがいい」といった

消極的な判断をしてしまい、

結果として何も得られないことがあります。

現実のビジネスでは、過去の経験やデータが

まったく役に立たないどころか、

なまじ知識として持っていることで

判断を誤る可能性だってあります。

それよりはむしろ、とにかくぶつかってみて、

その反応の中で、あれこれ試していく人間の方が、

思いがけない幸運をつかむ可能性が高いのです。

万全の準備をすれば、それだけ重装備になりますが、

そのために身軽な動きができなくなると、

幸運はスルリと逃げていってしまいます。

そういった意味では、運が強い人には

少し向こう見ずなところがあります。

「あの人のやっていることは、私から見れば

危なっかしいのだけど、なぜかうまくいく。

きっと運が強いんだな」と思わせる人が多いのです。

「私だったらもっと準備してからじゃないと動けない。

あの人は『とにかくやってみるよ』と動いてしまう」

それは見切り発車と言えば、そうなるのでしょうが、

本人はできる範囲での最低限の準備はしているつもりです。

たとえば初めて海外の国を旅行するなら、

帰ってくるまでの交通費や滞在費、ガイドブック1冊、

それと飲みなれた胃腸薬、ぐらいのものです。

仕事でも、「やってみたい」という気持ちがあれば、

まずラフなプランを立てて動き始めます。

むずかしい問題にぶつかったら詳しい人に聞けばいいし、

自分にできないことがあったら

誰かの手を借りればいいのです。

たしかに、備えはないよりあった方がいいのです。

でも運ということで考えるなら、

十分な備えをつくるためにジッと我慢し続ける人より、

「とにかくあるものでやってみよう」と

動きだす人の方が

はるかに幸運をつかむ可能性が高いはずです。

ジッと待っていても

「いいこと」はキャッチできないのですから、

これは当然のことになります。

エンジンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾より