明治大学教授、齋藤孝
現代は、インターネットという、
誰でもいつでも不機嫌をまきちらせてしまえるツールが誕生し、
「他人の不機嫌には傷つきやすいのに、
自分の不機嫌は無意識に発散させてしまう」人が増えている。
不機嫌を人にさらしている状態は、いわば「裸の王様」です。
荒波のように波立った不機嫌を鎮め、
オブラートに包んだ言動ができれば、
自分も周囲も安心して社会生活が送れるようになります。
マナーは自衛手段でもあるのです。
周囲の空気が硬く委縮していても、
他者へのサービス精神にあふれ、
生きることのエネルギーにあふれた人が一人でもいれば、
場の調子は必ず良い方向へと転じていきます。
上機嫌であるというのは、人に対してオープンであるということです。
その時々の気分で揺れることなく、
つねに安定した上機嫌の心持ちを維持継続して物事に対応できる
「オープンマインド・オープンバディ」な人は、
円滑にコミュニケーションができます。
コミュニケーションを通じて周囲にも良い効果を及ぼすことができ、
結果的に自分の気持ちもさらに向上します。
「上機嫌は人のためならず」。
周囲の不機嫌に悩んでいる人、
コミュニケーションの取り方に悩んでいる人こそ、
上機嫌の効能に助けられるはずです。
たとえば急ぎの用事があって電車に乗ろうとしたところ、
前にいるお母さんとベビーカーの動きがおそく、
自分が乗る前に電車のドアが閉まってしまったとしましょう。
「子連れで出かけるのは本当に大変だろうなあ」と
いたわりの心が持てる人もいるでしょうが、
一瞬「やっぱりベビーカーは邪魔だな」「あの母子がいなかったらなあ」と
イラッとしてしまう人もいることでしょう。
「不機嫌の芽」が出る瞬間です。
「不機嫌の芽」自体が必ずしも悪いものではありません。
心のなかに不快な気持ちが生まれること自体は生理反応であり、
人間としての性(さが)であるからです。
「機嫌とは、人の表情や態度に表れる快・不快の状態」です。
感情の変化をその時点で確認し、抑えて、人前で見せなければいいのです。
万一その場で舌打ちをしてしまっても、
「あ、今のは良くなかったな」と自分を立て直すことができれば、
上機嫌に一歩近づけます。
あるいは、家族や友人に「今日ベビーカーが邪魔で電車に乗れなくてさ―」と
グチを言ってしまうことはあるでしょう。
それでもまだ大丈夫。
彼らはあなたの元々の性格や普段の行動を知っています。
「まあまあ、そんなにイライラしなくても」
「あなたらしくないんじゃない」と諫(いさ)めてくれ、
「あ、今のは良くなかったな」とすぐに反省することができるはずです。
しかしこのところの日本では、自分が思ったことをすぐに
SNSに書いてしまう人が後を絶ちません。
「今日電車に乗ろうとしたらベビーカーが邪魔で乗れなくて、
用事に遅れちゃった。最悪」
すると、どうでしょうか?あなたの不機嫌…
他者に対する不寛容さを露(あら)わにした不用意な発言が、
いきなり全世界に発信され、拡散し、
多くの人に「未熟な人」という印象を与えてしまいます。
これは非常に危険な状態です。
「陰口」とされるものが、「陰」ではなくなり、公にさらされています。
SNSは、こうして不用意に発せられた不機嫌な言葉であふれています。
家でくつろぎながら何気なしにつぶやいたことが
世界に伝播(でんぱ)することで、あなたの評判が下がったり、
人間関係が破壊されたり、最悪職を失ったりすることもありえます。
現代人は他者の不機嫌に傷つきやすくなっている一方で、
24時間攻撃性を発揮できるようにもなりました。
その主戦場はあなたも毎日ふれているであろうインターネット。
もっと言えばツイッター、フェイスブック、LINEなどといった
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)です。
情報テクノロジーの発達とともに、
インターネットは、個人が自由に発言し
コミュニケーションできる場所を数々生み出してきました。
発信とコミュニケーションの機会が生まれたことで、
人類社会に数々のメリットがもたらされたことは疑いようのない事実です。
しかしその一方で、個人が自由に発信しコミュニケーションできるという
インターネットの利点は、不機嫌を増大、蔓延させ、
遠くまで広げてしまうという弊害ももたらしてしまった。
自動車の免許をとるときは、誰でも必ず自動車教習所に通って講習を受け、
実技・筆記の双方で試験を受けて、合格する必要があります。
もちろん免許を持っていても事故を起こす可能性はありますが、
教習を受けているからこそ、
人々は「いつ何かの拍子に加害者になるかもしれない」
ということを頭の片隅に置きながら、
身を引き締めて運転を行えるわけです。
それに対してSNSは、
免許どころか運転講習すらないのに、誰もが無責任に自分の気分を発信できてしまう。
これは非常におそろしいことです。
みんながみんな、知らず知らずのうちに複雑な首都高速を暴走している。
SNSでの発言が原因で職を失った人や、
他人の発言に傷ついて自殺した人もいるような状況なのに
「いつか何かの拍子に加害者/被害者になるかもしれない」と言う発想が
希薄な人が多い。
インターネットには、自分も無免許運転であるにもかかわらず、
他人を取り締まろうという不機嫌で傷つきやすい運転者があふれています。
この現状を理解せねばなりません。
「上機嫌は人のためならず」とは、「情けは人のためならず」からきたもの。
人に親切にすれば(情けをかければ)、相手のためになるだけでなく、
やがては自分によいことがかえってくるということ。
インターネット上での上機嫌も同じで、自分が上機嫌でいれば、
それはやがて、上機嫌がかえってくる。
エンジンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾より

