『自分を変える読書術』

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堀紘一

企業経営にとっては、運がなにより大切…
このことを私に教えてくれた人物は、故ブルース・ヘンダーソンである。彼はボストンコンサルティンググループ(BCG)の創業者であり、「戦略コンサルティング」という概念を初めて提唱。経営コンサルタントの世界に一種の革命を起こした風雲児であり、私の人生の師のひとりである。
その偉大なるブルース・ヘンダーソンは、経営戦略の重要性について私が問うと密かにこう教えてくれた。「もちろん企業経営にとって戦略は極めて重要なものである。しかし最重要ではない。最も大切なのは運である。しかし、これは人に教えるな」

運が大事だといっているのはブルースだけではない。かつて「経営の神様」と崇められた松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助さんも「成功の条件は運と愛嬌」とおっしゃっている。運があれば大概のことはうまくいくが、運がないと相当努力しても大概のことはあえなく失敗に終わる。

ところが困ったことに、この運ばかりは100%確実につかむ方法がない。何事にも重要な運をキャッチする確かな方法がないと聞いたら「努力なんて金輪際やめた!」と無為無策で世の中に流される生き方を選ぶ人が大半だろう。
でも、運をつかみとる方法がないとしたら、次善の策としてせめて自分にやれることを地道にコツコツ努力するタイプもいる。その姿を見た人は「頑張っているあいつにチャンスをやろう」と思ってくれる。それが思わぬ運につながるのだ。野球の選手でいえば、誰より遅くまでグラウンドで素振りを繰り返していたら、それを密かに見ていた2軍の監督は、1軍で想定外の故障をした選手が出たときなどに、その選手の1軍昇格を推薦しようとするだろう。

真面目に努力していれば、誰でも4番バッターになれるわけではない。世の中はそんなに甘くないが、少なくとも努力をしていればチャンスが訪れる確率は高まる。それをモノにできるかどうかもまた運である。運をつかみとるための日常的努力が野球選手にとっての素振りだとするならば、ビジネスパーソンにとっての素振りは読書に他ならないのだ。読書を通じて教養を磨いて自分なりの哲学を養っておくと、年上の人が可愛がってくれる。するとプロ野球の2軍の監督に目をかけられた野球選手が思わぬ出場機会を得るように、ビジネス上のチャンスをつかめる日もやってくるだろう。

『仕事でも結婚のようなプライベートでも、一大決心をするときには判断材料がなく、限られた情報だけで乾坤一擲、運を天に任せた勝負に出ないといけないシーンは結構ある。そこで頼りになるのは第六感しかないのだが、その勘の背景にあるのも、読書を通じて長い時間をかけて養ってきたその人の教養だと私は思っている。背後に豊かな教養がある勘は第六感だが、後ろ盾も根拠もなにもない勘は単なる山勘で失敗するリスクも高い』
読書をするということは、言葉を身につけることだ。言葉が身につくと、気の利いたことが言えるようになる。そして、相手を不快にせず、機嫌よくさせる言葉のセンスも身につけることができる。それが、「愛語」。その反対に、言葉のセンスがないと、相手を不快にする。相手を傷つけたり、二度と会いたくないと思わせてしまう。相手を不快にする人に、運やチャンスはやってこない。

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