『ピーター・ティール』

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トーマス・ラッポルト

昭和の時代、起業は頭が悪くてもガッツがあれば成功できる、ユートピアでした。でも、今日の起業は、頭が良くないと成功できない「高度な知的ゲーム」に変わりつつあります。なぜなら、今日のフロンティアはサイバー上にあり、それは高度な抽象思考を通してしか開拓できないからです。

「頭がいい」と言っても、これまで日本でもてはやされてきた、「記憶優位の」頭の良さとは違います。無限にオセロの端を広げていくような、クリエイティブな思考、拡大思考、点と点を線に、そして面に展開していく展開思考です。

ある日、床に敷かれた牛革の敷物にすわりながら、彼はこれ(敷物)は何?と父親にたずねた。「牛だよ」ピーターはその答えに飽き足らず、その牛はどうなったのか知りたがった。「牛さんは死んじゃったんだ」と父親。ピーターはさらに、それはどういうことなのかと食い下がる。父親は、牛さんはもう生きていないこと、動物も人間も、お父さんもピーターも皆いつかは死を迎えるのだと教えた。

父親の話は3歳のピーターにとってショックだっただけでなく、今日にいたるまで、人生をよりよく、より長くする技術の発展にかかわるきっかけとなった機械や集団に対する個の価値、権力の腐敗といったトールキンの哲学的モチーフも、ティールの人生に大きな影響を与えた

いまでもティールにとって、ハーバードは間違った競争主義の象徴だ。2014年に彼がスタンフォード大学で担当したゲスト講義「競争は負け犬のもの」で、彼はハーバード・ビジネススクールを徹底的にこきおろしている。「あそこの学生たちはアスペルガー症候群の対極にあります。やけに外交的で、自分の考えというものを持っていない。2年間もこういう連中と一緒にいると、群集本能ばかりが発達し、誤った決断を下すようになってしまいます」

ティールの世界観と、ビジネスや投資判断の流儀に決定的な影響を与えたのは、スタンフォード大教授だった著名フランス人哲学者、ルネ・ジラールである。ティールはジラールの主著『世の初めから隠されていること』を哲学の基礎課程ではじめて読んだ。ジラール思想の核にあるのは模倣理論と競争だ。ジラールによれば、人間の行動は「模倣」に基づいている。人間には他人が欲しがるものを欲しがる傾向がある。したがって模倣は競争を生み、競争はさらなる模倣を生む

「壊れているものを探せ」──スタートアップの出発点は、いつでもこれだ

競争は負け犬がするもの。まわりの人間を倒すことに夢中になってしまうと、もっと価値があるものを求める長期的な視野が失われてしまう
採用面接の受験者にもいつも訊いている。「賛成する人がほとんどいない、大切な真実は何でしょう?」

PERの欠点は、成長率を考慮しない点だ。そこで成長率を企業評価に反映するために、「PEGレシオ」を用いる。これはPERを利益成長率で割って求める数値で、この指標によって株式を成長値で評価することができる。ティールは、PEGレシオは成長企業を評価するすぐれた指標であると考えている

完全競争においてはどの企業も利益を出せない。利益が発生すると、新しい企業が市場に参入し、その利益をさらっていく。独占はその逆だ。独占者は市場そのものを「所有」する

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