安売りだけで成功した会社など一つもない

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キャニコム・包行均会長に聞く
曲沼美恵:ライター

ユニークな企業には、ユニークな経営者がいるものである。福岡県うきは市に本社を置く「キャニコム」の二代目、包行均(かねゆき・ひとし)会長もその1人。「草刈機まさお」をはじめ、「北国の春…お」や「みなみの春…お」、「男前刈清(おとこまえがりきよし)」などユーモアたっぷりの商品名で話題をふりまき、農業用運搬車の分野で業界トップに躍り出たかと思えば、「ブッシュカッタージョージ」や「ヒラリー」などの度胸あるネーミングで世界にも打って出る。
「斜陽」と言われて久しい業界で、「なんでも三流」だったメーカーを「超一流のグローバル中小企業」を目指せる会社へと変えた仰天の戦略と人生をご紹介する。

「草刈機まさお」は海外でも「MASAO」
――すごいなと思ったのは、そのネーミングセンスが海外にも通じちゃっているところです。草を刈る「草刈機まさお」。海外では「Hey MASAO」として親しまれている
「『草刈機まさお』なんてのは、世界中、どこへ行っても『まさお』で通す。言わんと買えんから、代理店もいつの間にか『まさお』言うようになった。『まさおくれ~』ちゅうようなもんで。海外だと『Hey MASAO』」

――「ブッシュカッタージョージ」とか「ヒラリー(和名:ひらり)」とか、けっこう、大胆な名前をつけてらっしゃいますよね。
「ネーミングは度胸。アメリカ人も笑ってくれる」

――キャニコムと言えば、お客さんの声を「ボヤキズム」と称して汲み取りながら商品開発していく話が有名です。あれは、御社の開発担当者が利用客のところへ行って、話を聞くというスタイルですよね?
「うちの開発の担当者は忙しくて、なかなか行かない」

――もしかして、会長自身が……。
「もう大好きやの。最近はね、講演とかが増えて行く機会が少なくなってるけど、それでも年に3、4回は行ってますからね。
販売店には行かない。販売店に行っても、ただ『安くせい』ちゅうだけだから。『安くせい』言われたとたんにね、この人はうちの商品を知らないんだなあ、と思うんです。そういうところに何回足を運んでも、いい情報はもらえない。真に受けて帰ってきよったらね、安いもの作るしかないんです」

安く売って成功した会社はない「安く売って儲かった人、成長した企業はひとつもないんです。これをね、マスコミさんにも是非、言わないと話にならん。
成長してる会社はね、値上げができる会社なんです。社員は絶対、ボーナスも給料も上げてもらいたい。商品が根本なんだから、商品の値を下げて給料を上げられますかっていう話なんです。これは中小企業でも大企業でも、どこも一緒だと思うんだけど、マスコミさんは『値上げして儲かりました』とは書かない。『コストダウンして儲かった』としか書いてくれない」

――そうかもしれません……(汗)。
「お客様は値下げよりもいい商品を欲しがっている」(包行会長)
「この20年、全体の景気が悪くなってきたのはそこ。代理店は『安くせい』しか言わんけど、直接、お客さんとこ行って聞いてみたら、いい商品を欲しがってるんです。こだわりの商品を。 農家もこだわってますから、人と違う作物を作ろうと思っても、それに対応した機械がないわけ。みんな、一般的なものしか作らないからね。数がたくさん出るもの、よく売れる機械を作るじゃない。特殊な機械はどんどん作らなくなる。
だけど、こだわってる農家ほど、そういうのを欲しいわけ。我々はそこに行って、話を聞いて、あなたが望みのものを作って差し上げましょう、と言っている。そうすると、ものすごく重宝されるわけね。だけど、台数は出ません」

――小ロット多品種生産にならざるを得ない。
「あなたのために一生懸命作ったんだから、高くなります。これ、当然でしょ?最大売れたとしても、年間1000台ぐらい。だったらこれくらいの値段になりますよというのは、相手にわかってもらうしかない。
逆に言うと、大企業は絶対にそこへは参入してこない。我々が『グローバル中小企業』を目指す理由はそこなんです。大企業が来ない分野は勘でわかる」商品化する基準は「胸」に突き刺さるかどうか

――そうすると、顧客の声のどこをくみ取って商品化するかっていうのは、すごく重要なポイントになりますね。
「そう、だから俺のここ(胸)に、突き刺さらんとダメ。農家のおやっさんが泣いて頼まんと。そのくらい困っております、というのがわからんと、作ったら大損になる。
30度の急斜面があったとします。そこでも刈れる草刈り機が欲しい、としますね。そしたら、安いか高いかの比較じゃないんですよ。この30度の坂を刈れる機械が、あるかないか。あれば、いくら出しても買う、となるでしょう。ここに挑戦すれば、当然、高くなるんです。どうしてもね。下手をすると、倍くらいの値段にはなる」

価格と言えば、こんな話もある。四輪駆動の「草刈機まさお」は当初、140万円で発売しようとしたところ、「高すぎる」「売れるわけがない」と反対された。そこで、包行会長は、それまでつきあいのなかった建設機械のリース・レンタル会社に、「まさお」を持ち込む作戦に出た。
すぐに「これは面白い」となったが、問題は価格。高いと思っていた140万円が「むしろ、安すぎる」と言われてしまった。
リース・レンタル会社の言い分は「高いからレンタルするのであって、安かったら買えばいい。中途半端な価格はダメだ」というもの。「メンテナンスの必要がないくらいに良くして持ってくれば、200万円で買う」と言われた。

リース料金の決め手となったのは、「まさお」を「試したい」とやってきた農家の感触だった。2時間ほど使用した結果、「これはいい機械だ」となり、お礼に一升瓶を3本持ってきた。それを1泊2日に換算した2万5000円が「まさお」のレンタル料金になった。「だから、値段はうちが決めたんじゃない。使う人の気持ちが決めている」と、包行会長は言う。

ビジネスのやり方はヨーロッパから学んだ「建設界には億単位もするような機械があるじゃないですか。だけど、そこで儲からんでもいいちゅうわけ。あとで部品交換がいっぱい出てくるわけよ。そら半端じゃない」

――キャニコムの部品のパーツの売上比率は今、どれぐらいですか。
「うちは15%から20%の間ぐらい」海外戦略や採用等をより強化するために今年3月、東京に「グローカル・ヘッドワーク・オフィス」を設置した

――もっと高めたいと思ってらっしゃる?
「それはそうです。部品は値引きがないですから。早く修理して欲しいときに、安いも高いもない。ということは、在庫をある程度、持っとかないといけない。なかったらお客さんが困るから。うちの場合、これを称して『ABCサービス』と呼んでいる」

――ABCサービス?
「アフター・ビフォア―・コンサル、これをきっちりやらんとね。今は高度成長期じゃないから、サービスできっちり儲かる仕組みを作らんと」

――そういうきめ細やかさって、海外だとどうなんでしょうか。同じようにできるものですか?
「一緒ですよ。むしろ、海外の方が進んでるくらいで。 うちの代理店さんの場合、『まさお』を一台買うでしょ。そしたら部品はだいたい10台分、買ってます。我々がヨーロッパ行ってびっくりしたのはそこ。部品供給いうたら、ヨーロッパの方が日本よりも心配してた」

――あ、先に成熟経済に突入していたから……。
「そう、うちらはそういうこと、ヨーロッパから教えてもらった。マレーシア、インドネシア、タイ。そういうところもね、個人的に行ったんです。出張じゃなくて、遊びでね。だけど、金持たんな、と思ったもんで。遠いけど、まあ、ヨーロッパからが正解かもしれんね、と思いながら、出て行った。

また来たくなる国ちゅうのは、空港で決まります。まず景色、色ね。それと、税関。人を小馬鹿にしたような目で見るようなとこはダメね。いらっしゃいませ、いう目で見てもらわんと。その雰囲気で『あ、この国好きだなあ』となる。
次にタクシー。ボッタくられたりしたら、二度と行きたくないと思うでしょ。
ホテル行くやん。鍵、ポーンと投げられたりして。最初はショボい部屋に案内して、文句言ったら替えてやるちゅうような発想。そういう人を小ばかにしとるような国は、海外取引ではダメやね。
いかにウエルカムするか、よね」

「まさお」は「F1」感覚でデザインされていた!
――意外だったのは、デザインを重視されてるという点です。中小企業のものづくりに関して、社長さんに伺うと「デザインなんか無駄だ」とおっしゃる方が多いのですが、キャニコムはデザイン専門の部署を持っていますね。
「まさお」はドイツでもデザイン性を高く評価させれている 「『デザインの森博多』ね。あそこはデザインを中心に海外担当だとか、海外向けの人たちが集まる場所ちゅうかな。
『まさお』を作った時にね、ドイツ人がカタログ見ただけで注文してきたん。『大丈夫か』と心配になって、『性能・機能を確かめなくていいのか?』って聞いたんですよ。そしたら、『デザインがいいものは性能・機能もいいはずだ』って。『ドイツの車でそれは立証しとる。ベンツ見ろ』と言うわけです」

――なるほど。
「『まさお』は、F1のような感覚でデザインしてます。葡萄の房がなっているとか、上部に制限があるところを走ることが多いから、運転席がスポーツカーみたいに低くなっている。時速も、うちが一番速いんです。と言っても、せいぜい時速14キロか15キロですけど。

坂道を登る時にもカッコ良く登りたいじゃないですか。隣のあの親父には負けたくない、どうだ、と。そういう気持ちに応えたい」

ワイシャツも自分でデザインネクタイやワイシャツだけではなく、自家用車も奇抜な色合いで注目を集めているという 「じつはね、私、ワイシャツも自分でデザインしてるんですよ」――えっ、ワイシャツも?
「百貨店に行くでしょ、そしたらまず、別々の柄で二着作る。右と左の身頃を別々の柄を組み合わせて、パターン違いを作ってみたり。そしたら、一度に二着売れるでしょって教えてあげる」

――右左、別々の柄……ですか。
「そういう、いろんなこと考えながら過ごす時間が、楽しいわけ。私はそこにお金を払う。ワイシャツのために2万円出すんじゃない、ここでデザインの勉強をしながら、楽しみながら考えるのにお金を出す。そこに無駄はないんです」

――そう言えば、名刺も社員の方と色が違いますね。
「社員は白と赤。黄色と赤は社長と会長だけ。裏返してみてください」

――「2016年 チャレンジ・チャーム」。なんですか、これは?
「『魅了あるチャレンジをしましょう』という意味です。毎年変える『今年の目標』」

――3つありますね。
最初の「ボヤキズム(コストアップ)」は先ほど伺ったとして、「DNA&DNB」というのは?「DNAは、あなた自身のこと。要するに、自分の頭で考えろという意味です。スマホを頼るな、と。それだったら、他社と差別化できない。スマホで見つかる答えは、どこでも一緒やん。 だから、もっと自分を信用しなさい、と。できる範囲でいいから、とりあえず自分の頭で考えようや、と。
そこにDNB、つまり『デザイン』『ネーミング』『ブランド』ね、これらをちゃんと足していく」

――最後にあるチャンスメーカーとは?
「市場が変化していますから、相手に合わせとったら大変じゃん。そうじゃなくて、キャニコムが変化させる。自ら変わったほうが早いよ」

――恐れ入りました。

エンジンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾より

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