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 伊集院 静

本というものは、過去を探っていく手がかりでもあるが、過去を辿ることは同時に未来を見つめることになる。

1冊の本が、一人の人間の人生の行方を決め、素晴らしい仕事、軌跡を生むこともある。1冊の本が作り出され、縁もゆかりもない一人の少女が、少年が、その本の1ページ目をめくり、1行目を読んで目を輝かせることを想像すると、本というものは情緒に満ち溢れた存在かもしれない。

いつの時代にも、若い人が本を詠まないことを嘆く人々がいるが、当たり前である。1行目から本を読む行為が、どれほどツマラナイと感じるかは、若い人なら分かる。正直、私もそうだった。
私はたまたま、自分の望みもあり、小説家になった。そのために敢えて数多くの小説、詩歌に接してきたが、すべて愉しいことなど、ほとんどなかった。

それでも我慢して読み続けていくと、思わぬ出逢いがあった。これは本当である。お洒落な装飾品や、ドレス、スーツを見ることも大切なことだろうが、少し手間のかかることをするのも、生きていく上の仕方なさではないかと思う。

本を巡る旅も、そう悪くはないと思うのだが、それは読者が決めることで、少し控えめにお勧めしたい。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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