笑顔は見る人の心も解きほぐす

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鬼海弘雄

「いい笑顔」には、めったにお目にかからない。
人生のリアリティが表情に刻み込まれるのは、悲しみや不幸が多いからだろうか。マニュアル化された笑顔は、町のあちこちで見る事が出来る。

しかし、顔の表面だけが笑った笑顔では、人の心を動かすことはできない。
その人の存在から湧きあがるような笑顔こそ、本物笑顔なのだ。

私の撮影した「笑うおばあちゃん」は、数少ない笑顔のポートレイトだ。
カメラに向かう時だけ、この笑顔になるのではない。おそらく、このおばあちゃんは誰に対しても、何が起こっても、いつもこの笑顔でいるにちがいない。
いったい、どうすれば、こんなに素敵な表情ができるのか。
どれほどの長い時間をかけて、この魅力的な笑顔になったのか。数えきれないほどの喜怒哀楽を経験し、たどり着いた自然体の生き方。この笑顔を見ているだけで、こちらの心が解きほぐされ、大いなる安らぎを感じる。

今、人が人に対して無関心になっている。仕事上の関係や自分と関わりのある人とは交流するが、自分と無関係だと思うと心を遮断してしまう。
混雑した電車内では、お互いが無関係の他人同士だから、無表情で押し合いへし合いし、緊張感に包まれている。そこに一言、「ごめんなさいね」「大丈夫ですか」「ありがとう」という言葉があるだけで、車内の空気がグンと温かくなる。そんな和やかな空気を感じると、「人間、生きていくのも悪くないな」と思えるようになる。

「いい笑顔」は、そうした毎日の積み重ねではないだろうか。
また、あのおばあちゃんのような笑顔の持つ主に遭いたいものだ。

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