形容詞を使わない大人の文章表現力

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石黒圭 国立国語研究所教授、一橋大学連携教授

駆け出しのライター時代、師匠からこんなことを言われました。
「美味しい」とだけは書くな。

「美味しい」はあくまで主観だから、そのままでは伝わらない。
どう書けば相手が美味しいと感じるのかを考えて書け、
ということです。

この教えを原則化すると、「形容詞を使うな」ということ。
文章から形容詞を排して、より具体的でより伝わる表現。

「すごい」だけでは、驚きの強さは伝わっても、
何がすごいのかは伝わりません。
「何がすごいか」を詳しく説明する表現を加えることが必要です

赫さんの研究によれば、ファッション誌に出てくるオノマトペは
「ちょ」がつくものがもっとも多く、
「ちょっぴりピンク」「ちょこっとイン」のように使われます。次に多いのは「ふわ」がつくもので、
「ふわふわニット」「ふわもこアイテム」のように
使われます。
そのあとに続くのが「たっぷり」「すっきり」で、
「たっぷりフレアのスカート」「すっきりシルエットのパンツ」のように
使われるそうです

〇歌謡曲のオノマトペ
第1位「そっと」第2位「キラキラ」第3位「ドキドキ」

子どもっぽくなるということで避けられがちな
オノマトペですが、
うまく使えば、言葉の生気を蘇らせる装置として有望

「すばらしい」という1語で一括してしまうのでなく、
すばらしく感じられる点を具体的に列挙した方が説得力は増す

ほんとうに休みが多いのであれば、
●うちの近所の焼き鳥屋は週3日営業で、
店が開いている日よりも 閉まっている日のほうが多い。
と書けば、事実に基づいた記述で確実です

夏の終わりが近づくとはかなさを感じてしまいます。
そんな自分の気持ちをSNSで発信するときに、
「はかない」と直接書かずに、
夏の風物詩に託して書く方法はないでしょうか。
私自身が夏の終わりを「はかなさ」とともに感じるのは、
セミと花火です

「の」が文末に挟まると、
文の一部の要素を否定することになります。
それによって、表現の力を強めることができます。
たとえば、以下のような感じです。
●私はお金儲けがしたくて仕事をしているのではない。
お客さまに喜んでほしくて仕事をしているのだ。

“not A but B”の論理を使ったもので面白いのは、
●場所に届けるんじゃない。人に届けるんだ。
(クロネコヤマト)でしょう。
宅配の荷物を大切に扱っていることが伝わります。
同じ宅配便のキャッチコピーとしては、
●歩いてる佐川のお兄さんを、私は見たことがない。(佐川急便)

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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