「遺族外来」

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 大西秀樹(埼玉医科大教授)

愛する人を失った人は、
深い悲しみに包まれるだけではない。
悲しみが大きなストレスとなって、
心や体に深刻な影響を与える。

うつ病になる人は、一般人なら3~7%だが、
遺族は23%にもなる。
55歳以上の男性が配偶者を失うと、
半年間で死亡率が40%も上昇する。
それなのに、私たちは死別の悲しみに対して、
十分な知識も対応策も持ち合わせてはいない。

筆者は、愛する人との死別で心に傷を残した遺族が、
新しい生活へ踏み出せるように「遺族外来」を開設した。

伴侶を亡くした後、頑張らなければと
精力的に働いているうちに、うつ病になってしまった知人。
臨終の時に流した夫の涙が気になり、
自分の看病が間違っていたのではと、後悔し続ける遺族。

悲しみに沈む遺族は、不用意な言葉で、さらに傷つく。
「がんばってね」「しっかりしないとだめ」「元気?」
「貴方の気持ちは、よく分かります」等。
他人の気持ちに配慮できない人は、確かにいる。

「遺族外来」では、ただ静かに遺族の話を聴くだけである。
なんだ、聴くだけかと思う人は、本当の悲しみを知らない。

患者の物語を聴く力が備わるまで、
最低でも20年はかかる。

でも、聴いてどうするのか。
「人間には、回復する力が備わっている」から、
遺族は、語る事で思いを整理し、
悲しみと向き合う力を身に着けて行く。
それを静かに見守るだけだ。

夫が生前に注文した車が、死後半年たったクリスマスに届いた。
うつ病になっていた妻は、これは生きろという事だと読み取る。
「待っているからな」の言葉を最後に旅立った夫に、
悲しむ妻は、ふと星空を眺めた時に、
「この広い宇宙の何処かにいる。だから、待っているなのだ」
と思い、孤独ではない事を知る。

遺族は、納得できる物語を作る事で、
深い悲しみと折り合いを付けながら自己治癒に向かうのだ。

これは、私たちが知っておかねばならない事だ。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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