『生きていくあなたへ』

Pocket

聖路加国際病院元名誉院長・日野原重明blog

一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。
だが、死ねば、多くの実を結ぶ。
(新約聖書 ヨハネによる福音書 十二章二十四節)

生きてきた時間のうち、人のために使った時間が多いか、
自分のために使った時間が多いかを測って、
人のために使った方が多い人が天国に行けるんだよ

名誉、お金、地位、他人からの賞賛、
そういうものに囚われていると、
ありのままの自分というのは
すぐに見えなくなってしまいます

自分の努力で変えられることと、
どんなに頑張っても変えられないことがある。
その変えられない現実の中で、真心をこめて生きたとき、
きっと神様が働いてくださる。そう信じて委ねるのです

人間というのは不思議な力を持っていて、
病によって弱められるのだけれど、
やがてその弱さの中から
ある種の強さというのが立ち上がってくるものなのです

確かに病は、筆舌に尽くしがたい苦痛を伴いますが、
これまでの無知だった自分をいさめ、
感謝という恵みを私達にもたらしてくれます

音楽も絵画も技術の素晴らしさが
人を感動させるのではなく、
そこに秘められた優しさや悲しみ、愛が
人々を魅了するのです。
医療も同じで、高い技術を駆使したところで、
患者さんを本当の意味で苦しみから
解放してあげられるとは限らないのです

一人で生まれてきた人間はいるのでしょうか? 
母親のお腹の中にいて、
母親の苦しみを経て、この世に生まれてきた、
その意味で人間は一人ではありません。
命自体が、自分一人の力で得られるものではないからです

医師の一色先生は「もし彼が歌声を取り戻せなかったら、
これまで築いてきたあなたの名誉に傷がつくだけだから、
そんなリスクのある手術をひき受けるべきではない」という
同僚や周囲の声に対し、
「自分の名誉が惜しくて
苦しむ患者を見捨てるわけにはいかない」と決心され、
きわめて成功率の低い手術に臨まれました。
同じ医療に携わる者として心から尊敬する姿だと思います

同時代の人がすぐには分からなくても、
真に価値のあるもの、
つまり真に美しいものに時代は必ず追いついてきます。
歴史の評価に堪えうる強さがあるからです。
本物というのは、
僕は「限りのないもの、区切りのないもの」だと思っています

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

Pocket