『SHOE DOG(シュードッグ)─靴にすべてを。』

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ビートたけし

戦後間もない敵国・日本に乗り込み、
靴ビジネスに着手するだけでも驚きですが、
そこから誰もなし得なかった画期的新商品を次々と発表、
前人未到の成長を成し遂げたところが、
フィル・ナイトが尊敬される所以でしょう。

もちろん、多くの起業物語がそうであるように、
ナイキも順風満帆だったわけではありません。

パートナーのオニツカとの別れ、
幾度も襲いかかる資金繰りの危機、2500万ドルの請求、
ナイキブランドをお仕上げたプリとの死別…。

すべてがドラマ。
そして、ウォーレン・バフェットも言うように、
「フィル・ナイトは天性のストーリー・テラー」なのです。

私は世界に足跡を残したかった。
私は勝ちたかった。
いや、そうじゃない。とにかく負けたくなかったのだ。

だが分かったのだ。
世界は馬鹿げたアイディアでできているのだと。
歴史は馬鹿げたアイディアの連続なのだと。
私が一番好きなもの、
書物、スポーツ、民主主義、自由独立の精神は
いずれも馬鹿げたアイディアから始まったのだ

まず飛び出して異国を見ないことには、
世界に足跡を残せるわけがない。
大きなレースに出場する前に、
必ずそのトラックを歩いてみたくなるのと同じだ

その日からどれくらい経った後だろうか。
ニケ神殿を舞台にしたアリストファネスの喜劇を知ったのは。
その喜劇の中で戦士が王に贈り物を差し出す。
それは新しい1足の靴だ。
その喜劇が、自分の名字と同じ『騎士』(Knights)という
タイトルだったのを知ったのは

ポートランドまでの帰りに、
私は商売が突然軌道に乗った理由について考えた。
百科事典は売れなかったし、軽蔑もしていた。
ミューチュアルファンドの売り込みはまだマシだったが、
内心では夢も希望もなかった。
シューズの販売は、なぜそれらと違ったのだろうか。
セールスでは、なかったからだ。
私は走ることを信じていた。

私は器用に複数の仕事を掛け持ちしたことなどないし、
今さらそんなことをする理由も見出せなかった。
常に今を生きたいと思っていた。
本当に重要な1つの仕事に集中したかった。
仕事ばかりで遊びがない人生なら、
仕事を遊びにしたかった。
そのためにはプライス・ウォーターハウスを辞めるしかない。
嫌いだからではなく、自分のいる場所ではなかったからだ。
私が望むのはみんなと同じことだ。
つまり、24時間本当の自分でいられることだ

ウッデルの家が裕福でないことは知っていた。
息子の医療費で彼らは私よりも生活に困っているはずだ。
この5000ドルは命の貯金だ
「どうしてここまで?」母親が答えた。
「だって自分の息子が働いている会社を信用できなかったら、
誰を信用できるっていうの?」

寝てはいけない夜がある。
自分の最も望むものがその時やってくる。

スメラギは、イトーの前で今にも土下座しそうな勢いで、
自分が単独でやったことで、会社をだましていたと
断言してくれた。
「なぜそんなことをしたんだ」とイトーは聞いた。
「ブルーリボンが大成功すると思ったからです」
ナイキは私にとって我が子のようなものです。
我が子の成長を見るのはいつだって嬉しいものです。
「それでは君がインボイスを隠したのは……つまり……
彼らのことが好きだからというわけか」
非常にバツが悪そうにスメラギは頭を下げた。
「はい」と言った。「はい」と。

困窮していたナイキを日商岩井が救った話は
何となく知っていましたが、裏にこんなドラマがあった

「自分の息子が働いている会社を信用できなかったら、
誰を信用できるっていうの?」といって計8000ドルを貸した
ウッデルの両親、
まだ成功もしていないフィル・ナイトに嫁いで支えた妻、
シューズ開発に命を賭けたバウワーマン、
日商岩井の2人、同業者の攻撃にさらされたナイキのために
便宜を図ったハットフィールド上院議員、
そして、彼らを魅了した偉大なる起業家、フィル・ナイト…。

われわれが何のために生きるのか、どう生きればいいのか、
その指針を示してくれる

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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