『葉隠』

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明治大学教授、齋藤孝

《武士たる者は、武道を心懸くべきこと、
珍しからずといへども、皆人油断と見えたり。》
(武士たる者が武士道を心がけねばならないということは、
格別とりたてて言うほどのことでもないが、
すべての人に油断があるように思う)

「武道の大本をなんと心得る」と聞いても、
即座に答えらえる武士が少ないことを、
山本常朝は「油断している」と語りました。

とりたてて言うほどのことではないが、
答えられないのは武道の心がけができていない。
つまり、油断千万だというわけです。

聞かれたときには言下に答えることが重要で、
「ええと、なんだっけ?」などと言う人は、
普段から考え抜いていないのです。

たとえばあなたが「仕事とはどういうものか」と
上司に聞かれたとします。
「もちろんいろいろあるだろうが、
もっとも君が重要だと思うことは何だ?」と言われたら、
何と答えますか。

自分のやっていることに対して確信があるなら、
パッと思い浮かぶでしょう。
普段から考えていれば、躊躇しないで答えられるでしょう。

答えは変わってもいいし、一つでなくてもいい。
「今はこれを心がけています」というのでもいいから、
とにかく答える。
それが「言下に答える力」です。

私は、大学で学生を教えるときには言下に答える力を要求し、
質問には三秒以内に答えるようにと言っています。

採用面接のときでも「これからの仕事の中で
大事なこと三つあるとすれば何か」と聞かれて、
三つパッパッパッと答えられる人は、
普段から仕事について自分自身の答えを持っている人ですね。

作詞家の阿久悠さんがテレビのインタビューで、
「歌詞を作る上で大切なことは何ですか」と聞かれたとき、
間髪をいれずに「時代です!」と強く答えられたのが、
印象に残っています。

何かを考えて準備をし、経験して、
これだと思うところに行きつくこと。
それは、自分がつかんだものでいいのです。

どんなことでも「自分なりに定義してみる」というのは
面白いことです。

「葉隠には何が書かれてあるか」ということだって、
いくつも定義できるでしょう。

ただし、言下に答えられなければ、
本当にわかっているとは言えません。
油断があるということなのです。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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