物語を読む 

Pocket

鍋田未佳

物語を読むという行為は、自分以外の誰かの人生を疑似的に追体験することだ。例えば、生まれも育ちも全く違うが、とても他人とは思えないような親しみを覚えて仕方のない人々。また、同じ時代の同じ国に生きていたとしても、間違っても一生交わることのないような人種の人々。物語の中で彼らはこの世界に、それぞれの思想や目的をもって、実在する人間として生きている。

文字や映像を通して、人ひとりの人生では決して知り得ない多様な世界を味わうことのできる物語は、そういう意味で、この世の中の在り方を知る一つの手段と言っていい。物語に入り込んでいる間、私という人間はここにいない。体だけ置いてあとは全部、物語のあちら側に出かけていき、そこで登場人物と一緒に楽しんだり悲しんだり怒ったりする。ときどき自分には理解の及ばないこともあるけれど、それはそれで良しとする。そもそも他人の人生を100%共感することなど、はじめからできないに決まっているのだ。

そうして私は、あちらの世界で共感したり、反発したり、消化したりして持ち帰ったものを密かに抱えながらこちらの世界を生きていく。

エジンオイル、OEM仲間の経営塾より


Pocket