『日本再生は、生産性向上しかない!』

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小西美術工藝社社長、デービッド・アトキンソン

2016年12月、私は『新・所得倍増論』を
上梓しました。

経済学的にみれば、先進国のなかで、
特に日本が伸びた理由は、
人口の相対的な増加だったということは、
計算機を叩いて数字で比較すれば誰でも分かります。

とりわけ同書で論争を引き起こしたのは、
日本のサービス業の生産性の低さです。

サービス産業における「一人あたりGDP」は、
G7の平均が3万8193.3ドルなのに対し、日本は2万5987.6ドル。
これはG7諸国で最下位、イタリアやスペインにも劣っています。

日本の一人当たりGDPは3万6434ドルですが、
先進国上位15ヵ国の平均は4万7117ドルで、
その差額1万0683ドルのうち、
9824ドル(92%)はサービス業で説明がつきます。

経済における比重が高くなっているのに
生産性がきわめて低い日本のサービス業は、
1990年以降の日本と海外の生産性のギャップ拡大に、
最も大きな影響を与えているのです。

私が二条城で関わっている文化財観光を例にとりますと、
海外での入場料の平均が1891円だったのに対し、
日本の平均は593円でした。

海外の文化財は日本の数倍の予算を使って修理し、
より良い保存状態を保ち、解説や展示もずっと充実しています。
飲食施設も併設し、グッズを売り、案内するガイドが
常駐しているほか、
外国語を含む音声ガイドも提供され、
頻繁にイベントを開催している。
入場料の分だけサービスを向上させているわけです。
やはり、付加価値は違います。

この違いを、お客様は神様なので
600円から値上げできないという「日本の美徳」で
説明できるとは思えません。
そもそもサービスの中身が劣っているから、
3分の1の入場料なのだと思います。

ホテルも同じことです。
海外の高級ホテル、たとえばアマンリゾーツを例にとると、
何時にチェックイン/チェックアウトするか、
いつ何を食べるか、ゲストの要望に
オールマイティに応えられるよう、大勢のスタッフがいます。
その代り、サービスの対価はすべて
お客様が払っているわけです。

ところが日本の一流と言われるホテルでは、
夜中になると
おにぎりやカレーライス、サンドイッチしか提供でない。
コンビニでも買えるレベルのサービスしか
提供しないことが多いのです。

ハード面では同じレベルでも、
3時にならないとチェックインさせないとか、
10時までにチェックアウトしなさいとか、
サービスのソフト面では歴然とした差があります。

日本と他の先進国との間で、
サービス業の生産性に開きが生じたのは、
1995年以降のことです。
それにはITの活用が関係している、というのが
多くの分析に共通した結論です。

美徳や対価ではなく、日本のサービス業がITを
十分に活用できていないことが大きいのです。
生産性を向上させるには、組織や仕事のあり方を
根本的に変えていく必要があります。
ITを導入すれば、犠牲になってしまう人も出てくる。

変化に反対する人が多いため、
人が足りないのにITを活用して
同じ仕事にかかわる人を減らすこともできないでいる。
仕方がないから、移民を入れようなどという人が出てくる、
おかしな状況です。

どんな業種でも、ITを導入して生産性を上げるためには、
痛みを変化が避けられません。
ここでも、「やるか、やらないか」しかないのです。

逆にいえば、サービス業の生産性向上に
一点集中で取り組むことさえできれば、
広がってしまった海外との生産性の差の大部分を
取り戻すことが可能です。
潜在能力の高い日本人には、劇的な効果が期待できるのです。

『日米産業別労働生産性水準比較』
(公益財団法人日本生産性本部)によると、
「産業別にみた日本の労働生産性水準(2010~2012年平均)は、
化学(143.2%) や機械(109.6%)で米国を上回り、
輸送機械(92.7%)でも遜色ない。

一方、サービス産業をみると、運輸(44.3%)や
卸売・小売業(38.4%)、飲食・宿泊(34.0%)などの
主要分野で格差が依然として大きい」
日本のサービス業の生産性は、化学産業や機械産業の
半分にも満たないということ。

また、こんな数字もある。
『人口千人あたりの事業体数も日本では小売が8.9、
飲食が5.7なのに対し、米国は小売が3.2、飲食が1.8しかなく、
約3倍もの差がある』以上
(なぜ日本のサービス産業の生産性は低いのか?・BLOGOS 2016年12月19日)より

つまり、店舗数が異常に多いということ。
しかし、この状態は長くは続かない。

なぜなら、人口減による人手不足で、
パートタイマーの時間給がじりじりとアップしているからだ。
それは近い将来、時間給を正規に支払えない事業体は
淘汰されるということであり、
生産性が低いところは生き残れないということでもある。

生産性を高め、海外との差を縮めないといけない。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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