『業を抑えて優しく』

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小林正観

〇「優しさ」とは何でしょうか。
「優しさ」というのは、力の強い立場にある者が、
例えば親が強い立場にあって、
弱い立場の子供に「権力を行使しない」ということです。

会社で言えば、上司が、部下に対して強い立場にあって、
その強さを行使せずに、同じ目線で同じように話す、
というのを「優しい」と言います。
ですから、「優しい上司」という言い方はしますが、
「優しい部下」という言い方はしません。

〇次に「業」について考えてみます。
「業」というものは、若い頃、幼い頃、平社員の頃のように、
力を持っていない時には出てはこないのですが、
それが年を経て強い立場になったときに、
突然、弱い立場の者に対して、その力をふるいたくなる。
それを「業」といいます。

ある人が、この業を持っているかどうかは、
その人を実際に強い立場に立たせてみないと分からないのです。

ここが、業というものの、
面白くもあり悲劇的でもあるところです。

「業がほとばしる」というのは、例えばこんなことです。

結婚をしたら、夫が突然、婚姻届けという紙切れ一枚で、
急に偉そうになってしまう。

結婚したら、夫が豹変してしまった、なんて話をよく聞きます。

人が、子供に対して業が深い威張り方をするかどうか、
それはその人が圧倒的に強い立場にある親というものを、
実際にやってみないと分かりません。

自分を見つめなおした時に、
「優しさ」が出ているでしょうか、
それとも「業」が出ているでしょうか。

私がここで「業」について書いているのは、
それが、意外と自分では気づけないものだからです。
だからここで、皆さんが事前に学んでおけば、
いつか「業」が出そうになった時に、
ハッと気がつけるかもしれないと思ったわけです。

業は「業の真っ只中にいる人」には分かりません。
入口に差しかかっている人には、まだ、分かるのです。
半分くらいは、元に戻れる可能性が残っています。
だから、外から見ていて「ああ、業が出てきたかな」という人に
言ってあげるのは良いでしょう。

けれども、業の真っ只中にいる人には、
いくら言ってあげても分かりません。
特に、ワンマンで、剛腕な社長は、
それで過ぎてきてしまっているから、
今さら自分で直そうとは思わないのです。
しかし、それを続けていくうちに、
だんだんと自分の周りから人がいなくなってしまいます。

人間は、上手くいっていない時には、
罠が仕掛けられていないのですけど、
上手くいっている時には、
実は、罠が仕掛けられているのだ、
ということを覚えておいてください。

今までは、穏やかな人格だった人が、
何か重たいものを抱え込んでしまって、
猪突猛進して生きていくと、
周りの人を辛くしてしまうのです。

周りの人が辛くなると、だんだん、人が離れていきます。
「敬して遠ざく」ということです。
尊敬はするのだけれども、
近寄りたくなくなるというふうになってくる訳です。

皆から「くだらない奴だ」と言われている間は、
業は、顔を出してはこないのです。
成功して、あなたは、すばらしい人であるとか、
すごいとか、役に立っているとか、
賞賛を浴びるようになったら、
必ず業の芽が現れてきますから、注意しなくてはなりません。

皆さんも、自分の子供に、何か才能があって、上手だねとか、
すてきだねとか言うのは良いのですが、同時に、
「その道で売れた時には、威張ってはいけないよ」と、
くれぐれも、若い頃から、繰り返し、繰り返し、
何度も言っておいてください。
業が芽生えなくてすみますから。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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