EVシフトは、意外に先になる

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大性康博、早大名誉教授 

2040年までに、ガソリン車やディーゼル車がEVに置き換わるような見立てが出ている。それは、行き過ぎだ。移行期間は、意外と長いだろう。

1.蓄電池の性能今のリチウムイオン電池は重すぎる。同じ電力貯蔵量のまま、重さが半分か3分の1にならないと、ガソリン車の走行性能に太刀打ちできない。
2.急速充電インフラ今の設備は、フル充電に1時間以上かかる場合もある。給油所並みの短時間を目指して設備容量を増やすと、一般家庭の100倍の電力を消費するインフラになる。安全に管理するために送電網や蓄電池の整備が課題になる。
3.環境対応と両立するエネルギー源の確保50キロワットの急速充電器を使って、1度に2万台を充電するには、原子力発電所1基分の発電設備が必要だ。火力発電で賄おうとすれば、二酸化炭素排出量を減らせない。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を満たす為に大幅な節電が求められている。その環境下で、EV用として特別に電力が確保されるのは難しい。
4.今のEVは、各国政府による購入支援なしに、ガソリン車に、コスト面で対抗できない。財政難の中、いつまで支援を続けられるかという課題がある。

ガソリン車やディーゼル車の禁止を打ち出した英仏などの事情は同じだ。EV化の方針を掲げる背景には、欧州特有の事情がある。
欧州はディーゼル車による大気汚染が深刻だからEVに置き換えたいのだ。
ガソリン車は、巻き添えを喰らっている印象がある。

EVの最大市場である中国も、国内産業を育成しつつ、大気汚染を食い止めたいという思惑がある。

米テスラが量産車を発売したが、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、「生産地獄」に直面していると発言した。普及が進むほど、車両トラブル時のリコール対応は、大変になる。ガソリン車が、すぐにでも消えるような見通しには賛同できない。

エンジンは価格が安く、燃費向上の技術革新は、これからも続く。火力発電に依存したままなら、EV普及とエンジンの効率化は、環境面での効果は同じだろう。

日本では、燃費や環境性能の良いガソリン車が走っている。水素で走る燃料電池車の普及も見据えている。EVとガソリン車の利点を併せ持つハイブリッド車もある。それぞれの開発状況や、消費者の嗜好の変化を見据えて過渡期に賢く対応していくべきである。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より


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