すっぴん

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中島みゆき

「気が利かない女どもで申し訳ありませんです。これは歌手なんですがね。私に言ってくれれば、いつでも大先生の講演会で歌わせますよ。」
園長先生は、突然私のプロダクションに変身した。
「歌手の割には地味でしてね。好い子ですよ。化粧もしない、すっぴんです。それに比べて、こいつは。」
私の隣にいた友は、ぎこちなく微笑んだ。
「何にも能が無いものだから、化け物みたいな化粧しやがって、見世物ショーですよ。」一座は大受けで拍手した。

友は細い首をうなだれて、私と一緒にお酌を続けた。私は、この日、大変底意地が悪かったので園長先生には教えない事にした。私が、実はフルメイクであったということも。
プロのメークアップアーティストに頼めば、すっぴんに見えるように作れるのだということも。私は、底意地が悪いので、園長先生には教えない事にした。

その日、友は体を壊し、その顔色の悪さを恥じてなけなしの白粉を、厚く塗っていたのだということも。それが乏しい化粧品であればあるほど、仕上がりは哀しく厚化粧見えてしまうのだという事も教えない事にした。

「教育者ですからね、子供らの考えは分かるんですよ。」得意満面で名刺を配る園長先生を、私は低い低い席から見上げていた。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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