『10年後、君に仕事はあるのか?』

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藤原和博

《高校生諸君へ》君たちは親と違う人生を歩むと言うけれど、どこが決定的に違うのか?

〇1つめは、君たちが社会人になる2020年代の半ばには、多くの親が体験した「標準的な人生モデル」は追求できない。会社で正社員にはなれないかもしれないし、大手企業に入社したとしても一生そこで働くのは珍しくなる。新卒の一括採用が残っているかどうかさえ怪しい。結婚して子育てし、マイホームを持つかどうかも分からない。だから、親の人生モデルを前提として君たちに説教しても通じない。

〇2つめは、スマホと、それにつながったネット世界の広がりです。今の高校生は1998年以降の生まれになりますが、グーグルも1998年生まれです。グーグル以前とグーグル以降は人種が違うと思った方がいい。君たちの世代は、人生の半分をネット上で暮らすことになる。ネットゲームの中毒患者でなくても、社会人としてちゃんと仕事をしようとすれば、そうなる。たとえば、SNSで仲間を募る「魔法の杖」は最強です。親世代には、学校の枠を超えて仲間を集めようとすれば、駅の伝言板くらいしかなかった。自分の存在の半分は、ネットの中で広がりながら他人とつながりを持つ。そして、その存在を評価されることで、自分の居場所が保障される感覚がある。ネット世界から個人がクレジット(信用と共感)を与えられることになるからです。リアルかバーチャルかは関係ない。リアルな場はますます複雑怪奇になり、居場所がなかったり、存在を脅かされることも増える。だから、仮にフェイスブックやツイッターが衰退することがあっても、新しいSNS的なサービスは次々と現れる。グーグル以降の人間は、ネット上で自己肯定感を得られる気持ちの良さからもはや逃れられない。

〇3つめは、人生の長さ(ライフスパン)が決定的に異なること。明治・大正を生きた世代と比較すると、君たちの世代は平均寿命が2倍に延びることになる。親世代が生きている昭和・平成の時代は、1997年までは高度成長期だった。子ども時代には掃除や洗濯機をロボットが、やってはくれなかったから、面倒なことや手間のかかる仕事がまだまだ多かった。不便な社会を知っている世代です。でも、君たちは違います。そうした面倒な手間を人工知能(AI)やロボットがやってしまう時代を生きている。なにかと便利な「コンビニ社会」に生まれてきたから、好きなことでもして時間をつぶさなければ暇で困ってしまう。「人生とはいかに時間をつぶすか」という感覚が強くなる。だからこそ、君たちの世代が成熟社会を進化させ、日本のスポーツ・文化・芸術を花開かせる可能性は高い。このように、世界観、自分観、人生観が、親の世代とは決定的に異なることになる。だから、理解されなかったとしても安心していい。

〇2020年に開催される東京五輪の後アテネ五輪のあとのギリシャや北京五輪のあとの中国など、世界の歴史を振り返れば、オリンピックを大々的に開催するために競技場や道路整備などに投資しすぎた国は、閉幕後、景気が大幅に落ち込むことが予想できる。これらの理由から、2020年代にはおそらく求人も半減することになる。この文章は、高校生に向けて書かれているが、このことは、そのまま親世代にも通じる大事な事実。ITやAI、ロボットなどの大きな変化に対して、生きていくための方策は同じだからだ。10年後、多くの仕事が消滅していく中で、どんな勉強をしたらいいのか、何を身につけたらいいのか。未来はもうすでに始まっている。働き方改革。SNSによるつながりの世界。人生100年時代の生き方。時代の変化に遅れない、変化適応能力が必要だ。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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