『こころのチキンスープ 7』

Pocket

ジャック・キャンフィールド

いつもどおりの水曜日だった。高齢者のホームで、私は家内と雑談していた。先日、私たちは心臓発作に見舞われたのだが、幸い順調に回復していた。そこへ仲間のミリアムがやって来た。

「ちょっとお邪魔してもいいかしら?私ね、幸せになるには3つのことが必要だと思ってきたのよ。まず、愛する相手がいること。それに、することがあること。そして、楽しみにして待つものがあること。
私はこのホームの人たちが大好きだし、いろんな活動のおかげですることもたくさんあるのよ。でも、楽しみにして待つものがないの。何かいいアイデアはないかしらね」

「ここに来るまえは、どんなことが好きだったの?」と私たちは聞いた。「みんなと笑うことよ」とミリアム。「どんなことを笑ったの?」「なんでもよ。目にするもの、聞くもの、感じるもの、味、匂い」。彼女はほほ笑みながら言った。その瞬間、私たちのプロジェクトは決まった。

楽しみに待つのは“笑い”に決め、それを生むために私たちの五感を総動員することにした。
まず、ポスターを作って貼り出した。「人生は、マジになるには大事すぎる」服のボタンにこんなことも書いた。「人生を楽しめ。これはドレスリハーサルじゃない」。ティーバッグにはこんなひと言。「あなたはこのティーバッグ…熱湯のなかでこそ強さがわかる」
ユーモアいっぱいの漫画、ビデオ、オーディオカセットはもちろん、周囲の人たちの協力のおかげで、シール、イラスト、本、ゲーム、雑誌も集めることができた。
私たちは“ユーモア・バスケット”というカゴを作り、そこに集めた本やテープ、グリーティングカード、子ども用のおもちゃなどを入れた。ダントツ人気は動物のぬいぐるみ。ついで色とりどりのスリンキーにゴムのひもがビラビラ下がったクッシュボール。シャボン玉も入れた。もちろん、肝心のミリアムのためにもこのバスケットを作った。バスケットを贈られた彼女のいちばんの楽しみは、カゴの中身をホームの仲間や訪問客、そして出会った人たちに分けることだった。

彼女のしたことは、ほほ笑みを探して人に分けることだと言う人もいた。これが私たちのプロジェクト名となった。「ほほ笑みを探して分け合う会」である。
この計画は大成功で、評判を聞きつけたほかの施設からも依頼があった。“ユーモア・カート”を作ってほしいと頼まれたこともある。スーパーマーケットにあるショッピング・カートのユーモア版である。ボランティアはこのカートを押して廊下を行き来しながら、笑顔や笑いを入居者と分かち合うのだ。

さらに、あるホームは、娯楽ビデオを完備したユーモア室を考案してほしいと依頼してきた。私たちの呼びかけで、入居者の家族が、スポーツ好プレー・珍プレー特集、どっきりカメラ、キャロル・バーネットやジョニー・カールソンのトークショーなどを録画した、お気に入りのビデオを寄贈してくれた。

一人の老婦人の力になろうとして始めた素朴な行為が、一生をかけてやるプロジェクトに変貌した。ミリアムは最後のごほうびである永遠の眠りについたが、最後に見かけたとき、彼女の部屋のドアにはこんな看板がかかっていた。

「自分のことを笑える女性は幸せだ。最期まで面白がっていられる」
《ジョン・マーフィ》

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

Pocket