『藤原先生これからの働き方について教えてください』

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教育改革実践家、藤原和博

「今、時代は大きく動いている」と言われます。それは、具体的にはどういうことでしょうか。20世紀の「成長社会」から「成熟社会」へと急速に変化しています。つまり、もはや「成長」の時代は終わった。今、ものすごい勢いで、社会の「成熟」度が深まっている。
現在は、それぞれ一人一人が自分独自の幸福論を持たないと、幸せになれない。こいういう時代においては、教育も変わらなければならない。

学校で『走れメロス』を読むという授業がありませんでしたか?
試験では「帰り道のメロスの気持ちに一番近いものはどれですか?次の4つの選択肢から選びなさい」などと問われたはずです。典型的な4択問題です。
そこには、「与えられた選択肢の中に必ず正解がある」という前提があった。でももう、そのような時代ではない。
今、求められるのは、その4つの選択肢を、自分自身で仮説として立てられる人材です。与えられたものの中から選ぶのではなく、自分で仮説を立て、それを一つ一つ自分で検証し、ときには仮説そのものを修正し、納得できる解を見つけていける人が求められている。

正解が一つの成長社会では、正解を早く正確に言い当てる力、すなわち「情報処理力」がもっとも重要でした。大学入試の問題が記憶力重視のものになっていたのは、ある意味、当然です。情報処理力の高い人を選別するのに、それがもっとも効率的だったからだ。
しかし、成熟社会に入り、あらゆる場で「正解」がない問題のほうが多くなっている。ビジネスの世界で、正解が一つで、意思決定はどの経営者がやっても大体同じ、なんてことはない。
学校現場でのいじめの解決でも、介護でも、それは同じです。それぞれの状況でそれぞれに異なる多様な解が求められている。
状況は常に変化するから、正解は一つではない。こういう時代により重要になるのは、情報を「処理」する能力ではなく、「編集」する能力です。
自分の頭の中で、知識・技術・経験のすべてを組み合わせて、そのときそのときの状況の中でもっとも納得できる「解」を導きだす能力。
自分だけが納得してもダメです。関わる他者も納得できるものでなければならない。そうした解を私は「納得解」と呼んでいる。
たった一つの「正解」がなくなった成熟社会では、自分が納得し、かつ関わる他人が納得する「納得解」を、情報を編集する能力を駆使して、どれだけつくり出せるか?どれだけ紡(つむ)げるか?それが問われる。

これからのビジネスパーソンの成功の鍵は、情報処理力ではありません。それなら、コンピュータのほうがずっと優秀ですし、実際、現在のホワイトカラーの仕事は、次々にコンピュータに取って代わられつつあります。
それよりも、
●どれぐらいアイデアを出せるか?どれぐらい知恵が出るか?
●どんなふうに仮説を設定し、試行錯誤を繰り返し、問題解決を図っていけるのか?
●どんな世界観で、どんな新規事業を考え出し、 どんなイノベーションを起こせるか?
これらが求められている。

イノベーションなくして、企業も国も生き残っていけない。
しかし、現在の学校教育で問題なのは、写真やボイスレコーダー的な記憶再生能力が未だに重視されていることだ。これは大学の入試などで顕著だ。
Googleで検索すれば出て来るようなことを、試験にするなどあまりに時代とずれている。なぜなら、現実の会社や社会ではそうなっているからだ。現代は、記憶再生能力(情報処理力)は、スマホ一つあればこと足りる。
もちろん、基礎や基本を覚えることはとても重要だ。その基本がなければ、検索することさえかなわない。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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