『逆説のスタートアップ思考』

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馬田隆明

スタートアップとは短期間で急成長を目指す一時的な組織体のこと。
新興企業であっても、短期間での急成長を目指さないものはスタートアップではない。着実な成長を目指すものはスモールビジネスだ。

通常の起業の対象となるような、飲食店や理髪店はスタートアップには該当しない。そうしたビジネスの成長の上限は、土地の広さと顧客単価、そして顧客の回転率でほとんど決まってくるからだ。
一方でITやテクノロジを使って自社製品を作るような事業なら、世界中の多くの人たちに使ってもらえるので、スタートアップになり得る。ただし、ITやテクノロジを使っているからといってスタートアップとは限らない。顧客の要望を聞き、ソフトウェアを作るような受託開発ビジネスも、顧客単価で成長の上限がほとんど決まってしまうからだ。

なぜ今、スタートアップが注目を集めているのか。
世界中でイノベーションが求められており、その効果的な手段であるスタートアップへの期待が高まっているからだ。

スタートアップにとって優れたアイデアは反直感的であり、直感に従って判断するとその真贋を間違ってしまう。
さらに「スタートアップの優れたアイデアとは不合理なアイデアである」とさえ言われる。「一見悪いように見えて実はよいアイデア」「他人から見ると狂ったように見えるアイデア」と表現してもいい。

たとえばAirbnbは、自分の家の一部を他人が泊まるために貸し出すサービスとして始まった。これは多くの人が「まさか」と思う、一見悪いように見えるアイデアだ。だから創業期は、多くの投資家が投資を見送った。しかしそんなAirbnbも、創業からわずか8年ほどで評価額が3兆円を超える企業となった。

この一見、不合理なアイデアの選択のことをピーター・ティールは「賛成する人がほとんどいない大切な真実」と呼ぶ。「狂気は個人にあっては稀有なことである。しかし、集団、党派、民族、時代にあっては通例である」と言うのは哲学者ニーチェだが、「間違って信じている幻想」を見抜き、それに異を唱えることが、スタートアップをはじめる人たちには必要な資質だ。

そしてもう一つ、スタートアップにとって反直感的で重要な事実は、「難しい課題のほうがスタートアップは簡単になる」ことだ。たとえば社会的課題を解決する事業のスタートアップや、高度な技術を必要とするハードテックスタートアップは難しく見え、選ぶのを避けてしまいがちだ。しかし、実は難しい課題を選ぶほうが結果として、スタートアップには簡単になる。

なぜ難しい課題のほうが簡単になるのか。その理由は主に、
●周囲からの支援が受けやすくなる
●優秀な人材採用につながる
●競合がいないマーケットに進出できるといった点にある。

まず社会的意義のある事業やミッションのある事業は、まわりの協力を取り付けることを簡単にしてくれる。重要な社会的意義や魅力的なストーリー、ロマンのためならば、進んで協力をしてくれる人は想像以上にたくさんいる。
技術的に難しい課題に取り組むことも優秀な人材を引きつける理由になる。宇宙やバイオテクノロジといった、比較的新しい技術領域に挑むスタートアップに、優秀な人材が雪崩れ込んでいる。優れた技術者は技術的に難しい問題の解決に熱意を持つ傾向にあるからだ。技術的な達成の困難さは優れた技術者を奮い立たせる。そして優れた技術者は優れた技術者のまわりに集まる。優れた技術者が一人スタートアップに入った瞬間、その人に憧れる技術者の入社応募が一気に増える。

近年、実現すれば社会的に大きな影響を与えられて、かつ技術的に実現が難しい課題に取り組む人達に対する支援も増加傾向にある。背景には「テクノフランソロピスト」と呼ばれる、それまでに技術で築いた私財を使い、技術でさらに世界をよくしていこうというフィランソロピスト(篤志家)の存在が増している。
例えばMicrosoftのビル・ゲイツ、dysonのジェームズ・ダイソン、Googleの元CEOであるエリック・シュミット、Tesla motorsのイーロン・マスクらは自らの私財を拠出し、難題を解決しようとする人たちを、研究補助やエンジェル投資、コンテストの協賛などを通じ、支援している。
彼らの重視するポイントは「ソーシャルインパクト」、つまり社会問題の解決や世界によい影響を与えるかどうかだ。

そうした潮流から明らかになりつつあるのは、平凡な企業、つまり既存のアイデアをコピーしてほんの少しの新しい何かを加えたような企業に優秀な人は集まらなくなってきているということだ。ミッションのない企業は人々を興奮させず、また成功するためのハードな働きをチームに引き起こすことができないので、結果的に成功が難しくなる。

『「競争に勝つには、どうやって競争から抜け出すか」を考えることが重要であり、持続的に高収益を上げ続けるために必要な考え方だ。そのためには独占することが必要です。
独占とは、消費者からすると悪いことのように聞こえる。しかし、そもそも独占が起こるのは、他社では叶えることのできない独自の価値を提供するから、結果的に一部の領域を占めるだけとも言える。
独占は、独創的なことをうまくやっているからこそできることだ。

素早く独占するためには、以下のような条件を満たす必要があることをピーター・ティールは上げている。
1.小さな市場を選ぶこと
2.少数の特定の顧客が集中していること
3.ライバルがほとんどいないこと
4.顧客に刺さり続ける仕組み(Stickiness)があること
5.スケールのために必要な限界費用が低いことIT分野はこれらの条件を満たしやすく、また規模の経済性を持っているため、結果的に独占を実現しやすいというメリットがある。』
Airbnb、Facebook、Instagram、LINE、kindle、Amazon、Google…我々がごく普通に使っている先端のサービスを提供している会社だ。これらの企業はすべて、創業して10年から20年以下という若い企業ばかり。時代は大きく変わっている。そして、世界中でスタートアップへの関心がますます高まっている。世界を変えるような、社会的意義のある事業やミッションのある事業に関わることができたら最高だ。

エンジンオイル、OEM仲間の勉強塾より

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