鈴木 喬:エステー取締役会議長兼代表執行役会長(CEO)
役員会のメンバーが全員揃って反対するような商品を、
あえてつくろうとするのは、商品を差別化したいからだ。
とにかく“世にない商品”をつくらないと、
エステーのような中堅企業は生き残れないし、
価格競争に巻き込まれてしまう。
非価格競争を仕掛けられる商品でなければダメなのだ。
冷蔵庫の脱臭剤の「脱臭炭」も、
開発当時は、全員が反対していた。
その当時の脱臭剤市場は3社の寡占でエステーは最後発。
しかも備長炭の効能を実現するために黒い製品になった。
皆が反対するのも分かったが、「だが、やれ」と押し切った。
人がやっていないものこそ価格競争に巻き込まれず、
非価格競争で戦える商品だからだ。
しかし評判は惨々だった。
流通のバイヤーは、「こんな黒いものを冷蔵庫に入れて
売れるわけがないだろう」と相手にしてくれない。
社内も皆が「止めよう、止めよう」の大合唱だ。
しかし僕は、「未来は誰にも分からない」と自分の勘を信じた。
とはいえ闇雲にドン・キホーテに
なろうとしていたのではない。
僕には僕なりに、自分の勘を信じた根拠があった。
それは、「トップの思いが入っていない製品は、
どんなに素晴らしい完成度があっても生き残らない」
ということだ。
実は、良い商品、ヒット商品になり得る商品というのは
毎年たくさん出ている。
しかし、新聞社のヒット商品番付に載れるような
商品は少ない。
その理由はすごく簡単。
経営トップに「ヒットさせてやろう」という思いが
足りないからだ。
それで優れたヒット候補商品が次から次へと死んでいく。
革新的な商品であればあるほど、
商品を出したときは「こんなものは売れないよ」と
必ず言われる。
だがそのときに、「そういうものかな」とか
「流通の人がそう言うのならば間違いないかも」などと
考えてはいけないのだ。
そうではなく、「うるせぇ。俺が必ず売ってきてやる」
「どこの社長が売れないと言っているんだ。
俺が話をつける」と直談判し、
なんとか売り場のスペースを確保する。
それができたらこちらの努力次第だ。
陳列ディスプレーを考えたり、店頭の販促物を考えたりして
アピールしながら、
その商品を使った人の心理的な満足感が出現するまで
持ちこたえいていく。
「臭いを吸って炭が小さくなった」
「水が貯まって除湿効果が目に見える」。
これらを実感するお客さまが出始めるまで、じっと辛抱する。
出始めたら、こちらのものだ。
僕の週末の趣味はストアチェックだ。
これはゴルフなどよりもずっと面白い。
ホームセンターに行き、エステーの商品をかごに入れた
お客様を見つけては、
「すみません、なぜ、その商品をお買いになりましたか」
と聞く。
お客さまは「あんた誰?」という顔をするが、
名刺とは便利なものだ。
名刺を渡して「お願いしますよ、教えてください、
どうしてですか」と質問攻めにすれば、
「まぁ、会長さん自ら」と話してくれる。
「エステーの会長が、自ら取材する筈がないだろう」と
詐欺師を見るような目をされるお客様もいるが、
それもこれも含めてお客様の本音がよく分かる。
だから高いお金をかけて市場調査をやるぐらいならば、
ストアチェックの方がはるかにいい。
調査好きの社員には、「お前らね、そんな金をかけるよりも、
買ってるお客様の声を聞いてこいや。
そしたらどういう状態にあるかよく分かるぜ」と言う。
重ねて「俺も一緒に行くぞ」と言うと皆、煙たがる。
それぐらいトップの思いがないと
物を売ることはできないのだ。
エンジンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾より

