八木昌実:エイトウッズ代表取締役社長

ダメ営業マンも上司のマネジメントで変わることができます

■できない理由を並べる習慣がついていないか

営業などの成績が悪い人というのは、

なぜ成績が悪いのでしょうか。

数多くの部下と接してきた私から見て、

そうした人は長い悪い習慣から逃れられないでいることが

多いように思います。

「自分なんて、どうせ」という負の思考回路に

とらわれているのです。

できない理由をいくつでも並べるといった癖がある人もいます。

一生懸命なんて、バカがやることだ、とひねている人もいます。

できないことを、チームのせい、上司のせい、顧客のせい、

会社のせい、経済のせい、政治のせい、社会のせい、など、

自分以外のものに全部責任転嫁している人もいます。

できない自分を正当化する理論武装に長けてしまう人もいます。

あるいは自分を客観視できていないこともあります。

自分の適性とやりたいことが違っていて、

苦手な分野のことをしているとか、

ちょっと目先を変えて違った職種に目を向ければ、

自分の良さが生かせるのに

それに気づかないということもあります。

しかもそういう人に限って、自分をオープンにする、

ということが苦手で、

あまり他人に干渉されたがりません。

「あの人、あの仕事は全然向いていないのに気の毒に」と

思ったり、

「ああいうところちょっと直せばいいのに、損しているわね」

などと

思ったとしても、そんなことを、わざわざおせっかいにも

その人に直接言って嫌われたり、

面倒がられたりしたくないのが人間です。

気づいていても誰も注意してはくれません。

それは上司がきちんと見抜いて、

こっちの方をやってみたら、と言うべきなのです。

ともかく、全てが負のスパイラルになってしまっている、

成績の悪い人をどうやって、やる気にさせ、

実績を上げてもらうか。

私があるチームを任されたときのことです。

私は毎朝朝礼でひとりずつ、営業で経験したことや、

目標などを話してもらうことにしていました。

こういうとき、業績のいい人だけに話させるのは悪手です。

全員に機会を与えることで、

いろいろな成功事例、失敗事例が挙げられて、

お互いに勉強になるし、発表の訓練にもなるからです。

その朝はAさんの番でした。

Aさんは「先週の成約件数はゼロでした。すみません」と

弱々しい声で言って、

元いた列にうつむき加減に戻って行きました。

私は朝礼が終わるやいなや、Aさんを自室に

「呼びつけ」ました。

チームの人たちが、Aさんが呼び出されたことに気づき、

どんな叱責があるのか、耳をそばだてています。

こういうときはマネジャーとして、

思いっきり怖い人格を演じなければなりません。

このチームでは、こういうやり方は今後通用しないのだと

周知徹底するためです。

■「成約件数はゼロです、すみません」をやめる

私はAさんに、「いまの挨拶はなんだ?」と叱りました。

そして、こう続けました。

「成約件数がゼロだったことは事実で、それは仕方がない。

それはいい。

そのあとだ。なぜ、『すみません』で終わるんだ。

君の挨拶を聞いて、みんなどう思っただろう。

『ああ、ゼロか、気の毒に。ああ、ゼロだから、

チームの成績の足を引っ張ったな、

ああ、ゼロか、不景気な話だな』と思うのが

せいぜいじゃないか。

みんな不景気な報告を受け、

おまけに君の話から何も得るところがなく、

マイナスの空気を渡されただけだ。

なにより、君自身もやる気が出るわけではないし、

ますますみんなの前でいやな気持ちになったのではないか」

そう、成約ゼロはよくない結果だった。

ではそれを踏まえて、その人がチームに

なんとか貢献するために、

チームの人が聞いていて得られるものがあるように、

そのとき言えることはなんでしょうか。

例えば、自分の失敗を振り返って、客観的に分析してみる。

そうすると、自分は過去1週間このような行動をしていて

成約にいたらなかった、

きっとこのターゲットが間違っていたのだろうとか、

この時間帯に訪問したら相手が忙しいことが多いので、

こういう業種の人にはこの時間帯はNGだとか、

こういう下準備が足りなかったとか、

この商品の推奨の仕方が間違っていたとか、

こんなことを聞かれたのに

うまく答えられなかったからダメだったとか、

何か必ず言えることがあるはずなのです。

チームの人もそれを聞けば、

ああ、このようにしてはいけないのだなと

何かしら得るものがあります。 

あるいは失敗を踏まえて、今後はこういう計画で、

こういうところに新しくアプローチをしたいのだが、

とっかかりがないので、

チーム内の誰かに橋渡しをしてもらえないか

という前向きな発言なら、

協力してくれる人が出てくるでしょう。

以後、そのチームの朝礼では、結果が悪くても、

「すみません」とだけ言って引き下がるのは

ご法度になりました。

悪い習慣はその場でなくすことが大事です。

「ゼロです、すみません」が通ってしまうと、

できない自分を放置しても許されると勘違いし、

いつまでもその癖が抜けなくなってしまいます。

私は厳しい人格をあえてつくってAさんに接し、

「ゼロだったのは仕方ないが、それを報告するときには、

今後は必ずチームや自分にプラスになるような

挨拶にするように」と厳命しました。

すると、Aさんは、その日から、

すぐに次に取るべき行動について考え、

自分のこれまでの営業を見直して、

何が問題なのか分析するようになりました。

最初はおそらく私が怖くて、次の朝礼の挨拶で同じことをしたら

もっと叱られるからという理由でやっていたのですが、

だんだんそれが結果に結びつくことがわかって、

積極的に自分の行動を分析するようになり、

次第にできない営業職の人だったAさんも

契約が取れるようになってきたのです。

■10年間成績が上がらなかった人は

なぜ突然やる気になったか

もうひとつ、10年間クビ寸前のできない営業職として、

くすぶっていた人が見事に再起した例をお話ししましょう。

ある営業所が廃止されて、

そこで万年営業成績が最下位のBさんが

私の支社に配属されることになりました。

10年以上、同僚からも上司からも後輩からも

できない人扱いをされ、

本人もすっかり諦めきっているようでした。

毎日、ただ、必要最低限の、やめさせられないだけの契約を

なんとか取ってきて、

会社にぶら下がっているといったありさまでした。

こういうとき、多くの管理職は、

どのチームでも厄介者扱いされ、

誰の下についても成績が振るわなかった営業職の人を

お荷物だと思うのではないでしょうか。

その人が自分の支社に来て面談をする機会があっても、

型通りの質問をするだけで、まともに取り合う気はなく、

最初から何も期待せず、

もっと有望な社員とプロジェクトについて相談したり、

前途ある社員の育成計画を考えたりしたいと思うはずです。

でも私はそれまでの経験から、そういう人は多くの場合、

潜在的にまったく能力がないわけではなく、

やる気を出すためのきっかけを欠いているだけだと

わかっていました。

売れない人だって、売れたほうがいいと思っているに

決まっているのです。

ただやり方がわからないか、

できないという偏見の目で見られ続けているために

変われないでいるだけなのです。

とにかくまず、きちんと向き合って

話をしなければいけないと思いました。

事前にBさんの同僚に、Bさんの人となりを聞いてみました。

長く前の支社にいて、古い事例をいろいろ知っている、

そのことにはみんな敬意を持っているということを

聞き出しました。

そして、早速Bさんと面談の時間を設けました。

「BさんはX支社に15年間いらして、

いろいろな古い事例を本当によくご存じだと、

みんな尊敬していましたよ」と言いました。

Bさんはちょっと半信半疑という顔をしました。

上司から肯定的なことを言われた経験が

あまりなかったのでしょう。

周囲からも好意的な評価があるとも思っていなかったに

違いありません。

そこで、

「Bさんは、本当はもっと積極的に

営業をしてみたいのではありませんか」と

水を向けてみました。

死んでいた目に少し輝きが戻るのが感じられました。

Bさんに、これから会社でどういうふうにしていきたいかを

さらに尋ねると、

ぽつぽつと、ずっと成績が振るわなかったが、

本当はもっと頑張ってみたい気持ちがあることを

話してくれました。

少しずつ閉じていたものが開いていくようでした。

私はそれ以外にも、Bさんに無理を強いない範囲で

プライベートのことや、仕事と関係ないことも

いろいろ聞いてみました。

Bさんのような人は、上司や周囲から積極的に相手にされたり、

戦力として扱われたりしたことがないので、

話を聞いてもらう機会に飢えていることが多いのです。

最初からできない人だと決めつけて、

何も見ようとしなければ、何も生まれようがありません。

本人もますます心を閉じて、やる気を封印してしまいます。

けれども、こちらがちゃんと話を聞くつもりで相対すれば、

自分の思いを必ず打ち明けてくれるものです。

私はBさんが、「頑張って売ってみたい」と言ったとき、

「ああ、やっぱりそうなんだ。

だったら一緒にやりましょうよ」と言いました。

Bさんが前向きになったこと。これが一番大事なことなのです。

こうしてきっかけができて、自分でやりたいと言い、

それをこちらも受け止めれば、

あとは雪崩をうったようによいほうへ変わっていきます。

その後、週2回の営業のミーティングで、

Bさんの集中力が明らかに高まっているのが見て取れました。

同僚の報告から、自分のヒントになりそうなことを

必死に学び取ろうとしていました。

研修も実施しました。研修は当然ながら、

やるだけではまったく意味がありません。

教える講師と教えられる側のトレイニーが

お互いに共通の目標に向かって、

ベクトルを合わせて臨むことで

初めて研修内容がトレイニーに定着するのです。

Bさんは頑張って売りたいという気持ちを全開にして

研修に臨み、

研修内容を最大限吸収しました。

そして、ある朝礼の成績発表でのこと。

「Bさん、1件」と私はBさんの前の週の成績を読み上げました。

チームの同僚たちは一瞬信じられないという顔をして、

やや遅れて、「おー!」と驚きと称賛の声を上げました。

Bさんのモチベーションがさらに向上したのはむろん、

Bさんよりはましな成績ではあったけれど、

あまり振るわなかった他の営業職の人たちにも

よい影響がありました。

「いままではBさんが最下位だったし、

できないもの同士でいいと思っていたけれど、

Bさんがやる気を出したなら、まずい。

自分もこのままではいられない」と、

やる気が波及したのです。

その後はタイミングを計って少しずつ、目標を高くしていくと、

モチベーションが持続します。

1件取れたら次は3件、3件をクリアできたら5件というふうに、

その人の成長に合わせて目標を変えていくのです。

おそらく本当にできない人などいません。

ただ、成績が出せない人は、

話をきちんと聞いてもらう機会を逸し続けて、

どうしていいか分からなくなっていたり、

やる気を出すきっかけを失っていたりして、

活性化できていないだけなのです。

ほとんどの上司は「使えない」と思っている部下について、

本気で話を聞いていないし、

対話をしていないから、その人をやる気にさせることが

できないでいるのだと思います。

そして、私は上司として、

彼らのやる気をどう引き出したかについて

お話ししましたが、自分ができないと思っている人も、

いまの話を応用していくつかやれることがあると思います。

成績が振るわなかったときは、必ず自分の行動を分析して、

どこに原因があるかを考える。

あるいは人の話を聞いていて、どうしたら成功するのか、

どうしたから失敗したのかを考えて、

自分の営業の行動に生かすこと。

自分を客観視する努力をすること。

できるだけ自分をオープンにして、

自分に対する人の意見を聞けるようにすること。

そしてできない理由を探したり、できないことを正当化したり、

周りのせいにするのをやめること。

全部できなくてもいいのです。

何か思い当たることがあったら

ひとつずつ改善してみてはどうでしょう。

最初からこの人はできない、

あるいは自分はできないと決めつけない。

まずはそこに、できない人ができる人に変貌する

カギがあると思います。

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