『獺祭(だっさい)の口ぐせ』

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桜井博志
潰れかけた酒蔵を引き継ぎ、「獺祭」ブランドで一躍「売上日本一」を達成した旭酒造会長

追い込まれた状況から考えついた「杜氏がいない」酒造り、酒造りの「見える化」、大量生産してもクオリティが落ちない酒造り、オールシーズン、同じ環境で酒造りすることから生まれた安定供給…。

ここからわかることは、伝統的な酒造りに比べて、獺祭の方が「PDCAを回す頻度が多くなる」ということです。

高原豪久氏の『ユニ・チャーム式 自分を成長させる技術』
タイの農民は日本の3倍の速さで米作りを習得するそうです。なぜかというと、タイでは3毛作ができるからです。1年に3回、米をつくることができるから、1年で日本の3年分の経験が積めるというわけです

「経験と勘」は言い逃れ
杜氏という大黒柱を失った私たちは、新しい杜氏を探し始めますが、いつ潰れてもおかしくない酒蔵に来てくれる杜氏は、そうそう見つかりません。そこで、私は決意します。「自分で酒を造ろう」そもそも、杜氏はベテランが多く、だいたいが60~70代。体調を崩していつ来てくれなくなるかわかりません。仮にうちに来てくれる杜氏が見つかったとしても、昔ながらのやり方で造るでしょうから、これまでと何も変わらない。同じことを繰り返すだけです

自分で酒造りをするにあたり、心に決めていたことがあります。それは、「自分が造りたい酒だけを造る」こと。職人である杜氏に遠慮することなく、純米大吟醸に特化した酒造りをする。どうせ潰れるなら、自分の理想とする酒を追求してやろうと決めたのです
酒造りをするうえで頼りにしたのは、数値やデータをベースにした酒造り精米、洗米、蒸米、麹造り、仕込み、上槽、瓶詰めといった酒造りの各プロセスでさまざまな情報をデータ化。それまで職人の「経験と勘」に頼っていた酒造りを「見える化」したのです
建物のスケールと生産量は大きくなったけれど、一つひとつの仕込みのスケールは変えていません

獺祭の製造方法の大きな特徴は、「四季醸造」であること
「獺祭」という名前をつけたとき、いろいろな意見がありました。良い名前だと言ってくれる人もいれば、「すぐに読めない名前なんて話にならない」「ダサいという言葉に近いなんて、センスを疑われる」と酷評する人もいました。しかし、ダメだと言ってくる人にかぎって、普段からうちの酒を売ってくれていない人ばかり
参考にしたのは、当時脚光を浴びていた「無印良品」。シンプルだけれど、存在感がある。そんなデザインを目指しました

「日和見主義」が最高の商品を生む
業界のマイナスの中にチャンスがある

品質が低く、価格の安い酒を浴びるように飲み、翌日二日酔いで体調を崩す。仕事もはかどらないし、「あんなに飲まなければよかった」と後悔の念にさいなまれる。ここにお客様の幸せはあるでしょうか
獺祭の躍進も、元は桜井会長の開き直りから始まった。どうせ潰れるなら、自分の理想とする酒を追求してやろう組織の都合、古いやり方に行き詰まりを感じている優秀な日本人が、この精神でモノ作りに取り組めば、きっと世界に通じるクオリティの商品がどんどん生まれてくるはずです。

「酔うため、売るため」の酒を捨てた今や、酔っぱらいはグローバル基準で考えたら、ありえない話。
知的生産に関わる人にとって、「酔うこと」は悪ですらあります。商品に求められている機能を問い直すことで、新たな市場を開拓できる。八方塞がりの業界でも、必ずチャンスはある。

エンジンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾より

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