クレイトン・M・クリステンセン

私たちが商品を買うということは基本的に、
なんらかのジョブを片づけるために
何かを「雇用(ハイア)」するということである。
その商品がジョブをうまく片づけてくれたら、
後日、同じジョブが発生したときに同じ商品を雇用するだろう。
ジョブの片づけ方に不満があれば、
その商品を「解雇(ファイア)し、
次回には別の何かを雇用するはずだ」

すぐ明らかになったのは、早朝の顧客は
誰もが同じジョブを抱えていたということだった
「仕事先まで、長く退屈な運転をしなければならない」。
だから、通勤時間に気を紛らわせるものがほしい。
しかも、いまはまだ腹はすいていないが、
あと1、2時間もすれば、そうなることが分かっている

ある客は言った。「ときにはバナナを食べますよ。
だけどバナナじゃだめなんだなあ。
すぐに食べ終えてしまうから。
で、結局、また腹が減ることになる」。
ドーナツはくずが落ちるし、手が油でべとべとして、
運転中に服やハンドルをよごしてしまう。
ベーグルはパサパサしていて味がないし、
チーズやジャムを塗ろうと思ったら
膝で運転しなければならなくなる

「そう!ミルクシェイクだ。濃いからさ! 
ストローだと20分ぐらいかかる。
中身がどうとか、知ったことじゃない
おれはね、昼飯まで腹がもてばいいんだ。
車のカップホルダーにもぴったりだし」

企業は果てしなくデータを蓄積しているものの、
どういうアイデアが成功するかを
高い精度で予測できるようには体系化されていない。
むしろデータは、「この顧客はあの顧客と類似性が高い」
「このプロダクトはあのプロダクトと
パフォーマンス属性が似ている」
「この人たちは過去に同じ行動をとった」
「顧客の68パーセントが商品Bより商品Aを好む」といった
形式で表現される。
だがこうしたデータは、顧客が「なぜ」ある選択をするのか
については何も教えてくれない

ジョブ理論の中核には、単純だが強力な知見が込められている。
顧客はある特定の商品を購入するのではなく、
進歩するために、それらを生活に引き入れるというものだ。
この「進歩」のことを顧客が片づけるべき「ジョブ」と呼び、
ジョブを解決するために顧客は商品を「雇用」するという
比喩的な言い方をしている

ジョブは機能面だけでとらえることはできない。
社会的および感情的側面も重要であり、
こちらのほうが機能面より強く作用する場合もある

チーズ会社が新たな種類のチーズを発売しても、
すばらしいイノベーションとは感じないだろう。
だがサージェント・フーズは、ごく薄くスライスしたチーズを
1枚ずつ包装した商品で初年に5千万ドルを売り上げ、
2年目は同カテゴリ全体を大きく成長させると同時に、
売上も1億5000万ドルへと引き上げた

「競争相手のいないジョブのまわりに自分たちを位置づける」

顧客のジョブを見きわめるということは、
顧客が実際に支払おうとするもの以上に
機能を増やしすぎてはいけないということだ。
その反面、片づけるべきジョブに応える
最適なプロダクトがあれば、
顧客は多めに支払うこともいとわない

ジョブをベースにしたイノベーションを
他者が模倣しようとしてもなかなかできないのは、
ひとつにはジョブスペックが詳細だからだ

あなたの会社のプロダクト/サービスを、
片づけるべきジョブと同義になるまで
結びつけることができれば、
誤った理由で顧客に雇用されることはなくなる。
ジョブと同義になったこのようなブランドを
目的(パーパス)ブランドと呼ぶ

スターバックスやグーグル、クレイグリストなど、
パーパスブランドになった数多くのブランドはどれも、
当初はたいして広告を打っていなかった。
にもかかわらず、やがて強い力をもち、
「ググる」のような動詞になっていった

何が顧客にその行動をとらせたのかを
真に理解していないかぎり、賭けに勝つ確率は低い

どうすれば、商品が売れる理由が理解できるのか。
どうすれば、顧客が自社商品を採用してくれるのか。

そのヒントは、じつは「ジョブ」にあったのです。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より