小森照久
三重大学大学院医学系研究科ストレス健康科学分野教授

しくじれば死、という過酷な任務をこなし続けた忍者の教え最も重要な任務は相手の情報を獲得し、それを持ち帰ることでした。
したがって、一番大切なことは、「生きて、生きて、生き抜くこと」だとされていました。そのために、決して命を落とさないように、戦いを避け、逃げることを恥としないことが説かれています

忍者の平均寿命は高く、生涯現役の人も多かったようです。医学博士で古武術や忍者に詳しい中島篤巳氏は、忍術を自立した「総合生活術」ととらえました。忍者が行っていることは有酸素運動をして腹八分目、栄養バランスや漢方薬の使用と、当時でも健康レベルがずば抜けていました

名を重んじる武士道とは基本の部分で違っています。武士道は家を守ることを重んじるのに対して、忍者はきわめて内省的であり、自らの使命を最優先に考えた強い意志があります
自分の名を残すことに躍起になる必要がなければ、本来やるべきことに力を注ぎ、厳しい環境にあっても穏やかに過ごしていける忍者は「放下着(ほうげちゃく)」という禅の考え方をとりいれていました。
放下とは捨てるという意味で、着は強調の「!」に相当し、「捨ててしまえ!」ということです。何を捨てるかというと、物事への執着心です忍者は生き抜くことが最優先ですから、何かにこだわっていてはいけないのです

忍術書の『万川集海』には、恐れ、侮り、考えすぎは忍者の三病だと書かれていて、恐れは臆病者が、侮りは慢心者が、考えすぎは頭のいい者が陥りやすいとされています
虚実転換は忍術の重要な技で、総じて生き抜くために逃げる技です。ウソとホントを入れ替える、有るものを無いように見せる、無いものを有るように見せる、大きなものを小さく、小さいものを大きく見せるなどです

忍者は「五車の術」という技を使って思い通りに人を動かします。迷信などを広めて恐怖心をあおり、敵の戦意を消失させる「恐車の術」、
相手をほめそやしてご機嫌を取り、隙を狙う「喜車の術」、
わざと相手を怒らせることで動揺を誘い、隙をつく「怒車の術」、
相手の羨望心を誘い、羨ましがらせることで寝返らせる「楽車の術」、
相手の同情を誘う「哀車の術」です

忍術を含め武芸一般では「二星之目付(にせいのめつけ)」ということがよく行われます。二星とは2つの目のことで、相手の肩や手を見ます。
相手に心を読まれず、相手の動きに対応しやすいのです

名を重んじる武士道と忍者では、思想の根本が違う
自分の名を残すことに躍起になる必要がなければ、本来やるべきことに力を注ぎ、厳しい環境にあっても穏やかに過ごしていける

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より