「画家は商売人」

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中野京子

画家が小説家のように一人で制作するようになったのは19世紀末の印象派の時代からだ。
それまでは、工房での仕事だった。助手や徒弟が大勢いた。顔料を練ったり、キャンバスの枠作りをしたり、様々な登場人物のスケッチしたり、背景を描いていた。画家は、彼らを束ねる社長であり、絵を教える教師だった。注文を開拓する営業マンでもあった。大勢の雇い人の生活を支えるために、売れる作品の研究は必須だ。
購買者は、特権階級だ。彼らが求めてくる神話や清書や歴史に精通していなければならない。教養も必要だ。
契約書を交わす時には、登場人物を何人にするか。少なければ、値下げする。手や指を描くのは難しいので、あれば値上げする。どんな顔料を使うか、画面の何割を弟子に任せるか。いつまでに仕上げるのか、詳細に決めた。
王侯貴族は、無理難題を押し付けて来るので社長としては駆け引きも必要だ。まさしく、商売人だったのだ。
ボッティチェリもラファエロもブリューゲルもティツィアーノもルーベンスもレンブラントもダヴィッドもみんな、ストレスいっぱいの商売人だった。
後世の傑作のほとんどが、そうして完成された。天才画家たちは、商売上で請け負った仕事であってもいざ取り組むと違う。商売を超える、どんどん超え、遥かに超え、創る喜びに没頭しただろう。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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