渡部昇一

私は人から「どういう選択をしたらいいと思いますか?」と

アドバイスを求められることがあります。

しかし、相談されても正しい答えが何なのか、

私には分りません。

だから、「よく考えて、断固、自分の信ずる道に行くより

仕方がないでしょう」と答えます。

結果として、その選択がうまくいくかどうかは本人次第です。

本当のことは自分以外には

分からないのです。

そして、自分でも、本当に何ができるかは

やってみるまで分からないのです。

先行きが何も予測できないような状況にあっては、

自らの信じるところに基づいて

断固として進んでいくしかないのです。

明治の人たちも同じように感じたはずです。

明治をつくった維新の志士たちは、

大体が下級武士の家の出身です。

彼らには幕藩体制の中、

「このままいても、一生、足軽みたいなものだ」

という気持ちがあったに違いありません。

だから討幕をめざしたという動機も、

少なからずあった。

一方で、討幕といっても、自分の仕える殿様を

鉢植のごとく転封できる将軍家というものが

どういうものなのか、想像もつかなったはずです。

ましてや、その将軍家を倒すとなると、

まったく見当のつかないことだったに違いありません。

とにかくやってみなければ、

その先がどうなるかは分からなかったのです。

思い切ってやってみたら結果としてうまくいった、

というのが実際だった。

そう考えると、「分からないことでも

勇気を出してやってみる」というところには、

人生の転機があるといってもいい。

変化が激しくて、先が予測できない時代は、

考えずにとにかくやってみるしか、他に方法がない。

現代はその激しい変化の時だが、

経済学者や専門家でさえ、

一瞬先がどうなるかは分からない。

必死に考えたところで、誰も予想がつかないのだ。

サントリ―創業者鳥井信治郎氏は、

「やってみなはれ。やらな分からしまへんで」という

名言を残している。

自分の確固たる考えが決まったら、

あまり深く考えずにやってみる。

新しいことや知らないことをやってみるには、

「エイヤ」という勇気が必要だ。

あれこれ考えたら、勇気はでてこない。

ただし、勇気と無謀とは違う。

勇気とは、誰もが恐れるようなことに対し、

理性を持ち、肚を決めて行動すること。

覚悟を決めなければ勇気はでてこない。

無謀とは蛮勇ともいうが、

後先考えずに、自分の正義感や価値観だけ

で行動してしまうこと。

何事も、やってみなければ分からない。

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