クリス・ヴォス、タール・ラズ

今、アメリカで最も注目されている交渉術の本。FBIに所属する一万人の捜査官のうち、国際的誘拐を担当する唯一の首席交渉人、クリス・ヴォス氏が書いた実践的交渉術。

「つまり、わたしが息子さんを殺しても構わないのかね、ミスター・ヴォス」「すみませんが、ロバート、どうしたら、生きているとわかるのですか」わたしは言った。
詫びのことばと相手のファーストネームを使い、会話にあたたかみを添えることで、わたしを脅迫する最初の一手を撹乱しようとした

円滑な関係を築くためのもっとも手早くて効率のいい手段は、ネガティブな感情を認めて発散することだ。わたしは人質の家族に対応するときはいつも、怖いですよねと切りだす
とにかく話を聞かない人に話をしようとしているとき、その頭をこじあける唯一の方法は、相手の反感を買って「ノー」と言わせることである。
その最適なやり方のひとつは、相手の感情や要求にまちがったラベリングをすることだ。つまり、完全にまちがっていると承知していることを──例えば、仕事を失いたくないことが明らかな人に「なるほど、ほんとうにこの仕事を辞めたくてたまらないようですね」と──告げるのである。それによって、相手は話を聞かざるをえなくなり、「いいえ、そうではありません。こうです」と言うことで、あなたのことばを訂正して安心する相手を説得して、自分が達成しようとしていることを見てもらう前に、相手に「そのとおりだ」と言わせる何かを、自分が言わなくてはならないのである

要約を使って、「そのとおりだ」を引きだそう

期限はことあるごとに、本人の最善の利益に反して衝動的なことを言わせたり、やらせたりするが、それは人には期限が近づいてくると急ぐという傾向が、生まれながらにしてあるからだ

わたしは契約を交わした先々に出向き、通常一日あたり2000ドル受けとっていた業者に、数か月のあいだ500ドルしか出せないことを伝えなくてはならなかった「ろくでもない提案があるのですが」わたしは言い、相手が先を促すまで間を置いた
こうして期待の低さという地雷原にアンカーで相手の感情を固定してから、損失を回避したい気持ちを焚きつけた。「それでも、ほかのだれよりも先に、あなたにこの機会を持ちかけたかったのです」わたしは言った。
ここで突然、その電話の用件は、2000ドルを500ドルに削減する話ではなく、500ドルをほかの人間に取られないためにはどうすべきかという話に変わった。どの相手も取引に合意した。対案も苦情も出なかった

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