『勝利の文化』が変える経営

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「万年Bクラス」のプロ野球、横浜ベイスターズにここ数年勢いがある。何故万年Bクラスのチームが変わったのか。
選手育成を任される2軍監督:「組織に一体感、新しい文化ができつつある」チームは6年前からラグビーの指導者による講習や助言を受けている。

最初はラグビーの指導法など半信半疑だったが、レギュラーと控え、選手とコーチ、コーチと裏方の間の意思疎通や共通の思いを育むことの重要性を聞くうちに足りなかったものがたくさん見えてきた。
選手の指導法ではコーチの「オレ流」任せが多かったが、今はコミュニケーションが緊密になり1軍、2軍の間での指導方針が明確な方向にまとまり出した。
ラグビー指導者が助言の下敷きにしているのはサッカー・スペイン・FCバルセロナとラグビー・ニュージーランド代表・オールブラックス。
両チームにはよく似た行動規範が存在する。「ウィニング・カルチャー(勝ち続ける文化)」で世界中の競技団体、チームが研究している。
勝つ文化とは、例えばFCバルセロナには16ある育成チームからトップチーム、コーチ、フロント、スタッフまで全員で共有する約束事がある。
「控えも裏方もみな同じ気持ちで試合に臨む」
「ボールは100%キープして当たり前」
ボール支配では「5秒ルール」があり、それを超えて相手に占有されたらチームは全力で取り戻しに行く。ボールを奪われないようにする訓練もする。ボールを持ち続けることは人間の欲求と幸せ⇒だから勝利へのエネルギーになる。
選手はそういう論法で自分の行動の意味を一つ一つ教えられていく。
そうした文化にベイスターズで最も刺激を受けたのは1軍の中軸選手。研修はコーチ、スタッフ向けだったが今では1軍、2軍選手も加わる。選手の希望だという。

ビジネスの世界にも参考になる。文化は企業の盛衰をも大きく左右する。大学の研究でもシリコンバレー企業をコミットメント型、スター型、独裁型、官僚型、エンジニアリング型の5つに類型化し20年間追ったところ
長く存在した企業が最も多く分布したのは「文化を重んじる傾向が強い」コミットメント型。

2010年代はGAFAと呼ばれる米IT企業が世界を大きく変えたが、2020年代、それら巨大IT企業でさえ事業の領域や組織の形を大きく変えないと生き残れない可能性がある。
デジタル化が産業を変える速度、震度は次の10年の方が大きく「企業は変化を積極的に取り込む文化があるかどうかを試される」。

文化が脚光を浴び始めたのは変動制、不確実性、複雑性、曖昧性を指す「VUCA」の時代というだけでなく、文化にはチームの勝ち負けや企業の永続性を左右する普遍的な価値や理由がひそむ。
いくつかの組織が改めて、そこに気が付きつつある。チームの方向性のベクトルをしっかり合わせているチームが強い。

この文化と言うところは、会社のいう企業理念や行動規範、社風などが相当する。これら文化を理解し、社員が会社の行く方向性をしっかり意識していると安定した成長を遂げていく
そのため経営陣は何をすべきか。文化を共有し会社の向かう方向性を明確にし、価値観を合わせていく。そのコミュニケーションを怠らないことだ。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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のんびり生きて気楽に死のう

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ひろさちや

われわれはどんな状態であっても、そのままで幸福になれる。
わたしたちは、金持ちイコール幸福、貧乏イコール不幸と、短絡的に考えている。

でも、それはおかしい。この世には幸福な金持ちもいれば、不幸な金持ちもいる。不幸な貧乏人もいれば、幸福な貧乏人もいる。
あなたがもし貧しければ、幸福な貧乏人になるようにすればいい。貧乏を嫌って金持ちになろうとして、不幸な金持ちになるのは馬鹿げている。

わたしたちの思い込みでは、たとえば、失恋は不幸である。失恋すると、たいていの人は嘆き悲しむ。けれども、失恋の反対の得恋が幸福かといえば、必ずしもそうではない。

有名な…真間手児名(ままのてこな)…の話がある。
彼女は美少女で、下総国葛飾郡真間(現在の千葉県市川市)に住んでいた。沓(くつ)も履けない貧しい少女であったが、多くの男たちに求婚された。気のやさしい手児名は、多数の男のうちから一人を選ぶことができず、みずから花の盛りを入り江に身を投げて自殺してしまった。この手児名の話は『万葉集』に山部赤人や高橋虫麻呂が作歌している。

たしかに、失恋は悲しい。けれども、真間手児名の例でも分かるように、得恋イコール幸福、失恋イコール不幸ではない。わたしたちは失恋したのであれば、幸福な失恋者になろうとすればよい。幸福な失恋者とは、相手の幸福を祈ってあげられる人間であろう。

自分がいまある状態において、しっかりと幸福になろうとすること。
それがいちばんすばらしい生き方だ。

幸せな金持ちもいれば、不幸せな金持もいるのと同様に、幸せな有名人もいれば、不幸せな有名人もいる。テレビに出ているようなタレントや俳優、あるいは政治家などだ。表面的には華やかなだけに、みな幸せだろうと思ってしまうが…。

「置かれた場所で咲きなさい」渡辺和子
幸せな人とは、まさに、置かれた場所で咲いている人。他人をうらやむ人は、幸せにはなれない。不幸な人ほど、他人と比較をする。

今のままで、しっかりと幸福になれる人になることだ。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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「最も非生産的で、最も問題が解決しない考え方」

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元・ゴールドラット・コンサルティング日本代表の岸良裕司

(岸良氏の京セラ在籍時)
稲盛和夫さんは「私にもできるのだから皆にもできる」
と常日頃語っていた。
だが、僕は新入社員の頃、自分が稲盛さんのような
凄い人になれるとは到底思えなかった。

でもある時、稲盛さんのような偉大な人が
存在しているからには、
必ず何かの理由があるはずだと考えるようになった。
要するに「あの人だからできる」という考え方を
やめたのである。
「あの人だからできる」と定義すると、
学びがそこで止まってしまうからだ。

大好きだった京セラを飛び出したのは43歳。
現在様々な赤字企業や問題を抱えた組織の
経営コンサルティングをさせてもらっている。
相談の中身はそれぞれに異なるが、
何か問題があって、ずっと解決しない時には
必ず一つの共通した症状がある。
それは”人のせいにする”ということだ。

「あそこの会社は力があるから」「うちには人材がいないから」といったように
「○○のせいだ」という言葉が必ずどこかに出ている。

いつも僕は同じ質問をする。
「人のせいにして問題は解決しますか」
世界中の誰に尋ねても「しない」と口を揃えて答える。
にもかかわらず、我われは人のせいにしがちで、
その結果、問題を放置してしまう。

見方を変えれば、その症状があったとしたら、
そこに改善のチャンスがあるということだ。

稲盛さんは講話の中で「宇宙は常に進化発展している。
そこに心を委ねるならば、
京セラも未来永劫発展する」と我われに語られた。

僕も曲がりなりに50年以上の人生を生きてきて、
確かにそうではないかと思う。
世の中はよき方向へ向かっている。
それなのに、その妨げになるものがあるとすれば、
それは我われの持つ、
最も非生産的で問題が解決しない考え方
「人のせいにする」ということではないだろうか。

かつての僕がそうだったように、
自分の思うような仕事や部署に就けず、
悶々としている人は少なくないだろう。

だが仕事というものは「自分がいたら助かる」という
部分を見つけるところから始まるのだと思う。
そしてそれは必ず見つけられる。
職場には必ず困っていることがあるからだ。
会社が自分を雇ってくれた理由とは何か。
それを自らに問うところにきっと新しい扉が開かれている。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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『心をつかむ技術』

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カート・モーテンセン

自負心とは、人々から尊敬されることを求め、認められたいと思う気持ちのことだ。すべての人の心の奥底に、自分は重要な人間であり、他人に認められたいという欲求が秘められている。
自負心は非論理的で破壊的な行動をとらせる一方で、高貴で勇敢な行動をとらせる。
自負心が満たされないとき、人々はいかなる方法を使ってでもそれを満たそうとする。したがって、人々の満たされていない自負心を満たすのを助ければ、大きな説得力を持つことができる。
人々は自負心をいつも満たしてほしいと思っている。だから、自分の価値を認めてもらい、大切にされていることを確認したがるものだ。心理学者のJ・C・スタール博士は多くの調査を分析し、組織に勤める人たちの不満の主な原因が上司の態度にあることを発見した。

それを重要度の順にリストアップしよう。
●アイデアや提案をしても功績を認めてくれない
●問題の改善を申し出ても実行してもらえない
●励ましてくれない
●意見を言わせてもらえない
●作業の進捗状況を知らせてくれない
●えこひいきをする
以上の原因はすべて、自負心を傷つけられることによるものだ。これはたいへん残念なことである。
というのは、複数の研究で、従業員が効率よく働くのは自分の努力を認められたときであることが確認されているからだ。
工事現場の監督と作業員の関係を調査したミシガン大学の心理学者のチームによると、作業員を働かせようとして威張り散らすタイプよりも、作業員から慕われるタイプのほうが、作業員が効率よく働くことがわかった。

あなたが人々の心をつかみたいのなら、なんらかの方法で相手の自負心を満たすことが不可欠になる。しかし残念ながら、あまりにも多くの場合、相手を脅したり、あせらせたり、嫉妬心や不信感を抱かせたりして説得しようとしているのが実情だ。
「自負する」とは、自分の才能や仕事、業績などに対して自信と誇りを持つこと。「この分野では誰よりも知識があると自負している」というように使われる。
「自分は価値ある存在である」「自分は特別で重要な存在である」「人から大切にされている」そして、「人から尊敬されている」というようなことを実感することを「自己重要感」という。この自己重要感を高めれば、自負心は満たされる。

そのために必要なことは…
■相手を肯定し認める
■相手の話をよく聞く
■褒める
■共感する

相手の自負心を満たしてあげましょう。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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『成功力』

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斎藤一人

この星は、行動の星だよっていつも言ってるんです。地球は行動の星なんです。どういうことかって言ったら、例えば幸せになりたかったら、行動しなきゃいけないってことなんです。待っていても、誰かが幸せにしてくれるわけじゃない。行動することが意志なんです。

で、間違ってたら直ちにやめるのが意志なんです。間違ってても、「我(が)」を通して言い張ったり、なかなかやめようとしなかったりするのを頑固っていうんだよね。だから間違ってたら、すぐやめればいいの。

だから、行動しながら「自分は間違ってるんじゃないか」って常に疑問を持ってて、間違ったらすぐやめる。
いったんやめたら、そのままずっとやめちゃうんじゃないよ。やめて、間違ってたところを改めて、また挑戦するっていうこと。頑固な人は、それをやろうとしないの。間違っててもやめようとしないからみんなが迷惑しちゃうんです。
例えば、自分がいじめられたら、すぐ先生に言う、警察に言う、親に言うんです。10円取られても脅し取られたとか、触られただけでも殴られたとかね。ともかく、嫌なやつ、自分をいじめるやつにとって嫌な人間になるように努力すれば、絶対変えていけるんだよ。だんだんいじめられなくなる。

で、この世で自分を助けるのは自分なんだって思って行動するの。
自分の力だけでどうしようもなかったら、周りを、例えば親なり先生なりを巻き込むんです。そのための行動が必要なんです。けんかで勝てないんだったら、周りを巻き込んで、正義の戦いをするという、勝ち方をしていかないといけないんです。
正しき者は必ず勝つ。おまわりさんが守ってくれるからね。おまわりさんは全員ピストルを持っているからね。自分にはすごい味方がいるんだと思って、堂々と戦う。

どんなにいいアイデアでも、どんなにいいことでも、それを行動に移さなかったらそれはないのと一緒。頭の中にしまっておくだけだったら、誰もわからないし、状況は何も変わらない。
例えば、「いじめ」の問題で、「嫌な奴にとって、嫌な人間になるように行動する」。それが、まわりを巻き込んで騒ぎを大きくするということ。

この地球上のすべてのトラブルや困難や嫌なことは、行動によってしか解決しない。頭で考えているということは、評論家や、傍観者や、ただの観客でいるということ。
また、「現状維持」という言い方で、問題に蓋をして、先送りするというのも、行動しないこと。
行動とは、現状を打破する姿勢のこと。行動しないということは、現状維持の姿勢のこと。どんな時も、この地球では行動が必要だ。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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『身軽に生きる』

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医師、矢作直樹

たとえは悪いのですが、からだの維持は「蟻地獄(ありじごく)」に似ています。しっかりと前に進まないと、ずるずる後ろ(下)へと落ちます。
前に進む、つまり常にからだを動かす、鍛えていなければ、ずるずると衰え、さまざまな病気になりやすくなるのです。

皆さんの多くが望んでいる死に方は「ピンピンころり」でしょう。長いこと寝たきりになる状態を望む人などいません。でも、と考えます。ピンピンころりと旅立つためには、まずピンピンしていないといけません。普段から元気でないといけません。そのためには、もっとからだを動かすこと。

「疲れる、面倒くさい」そう考え、楽なほうへと流されないでください。
また、からだは「借り物」という事実をお忘れなく。私たちのからだは、なるたけ傷をつけずに、他界するその日に天へとお返ししなければなりません。その意識がなければ、からだへの感謝の念も生まれません。

すこやかに生きる。身軽に、無理なく生きる。私たちは皆、地球に住まわせていただいています。「お天道さまに、生かされている」この事実を、いつも忘れたくないものです。

疲れる、面倒くさい。こういう気持ちが強いとからだが衰える、
つまり老化も早いのです。好きなことや、習慣になっていることを面倒くさい、と思う人はいない。逆に、苦手なことや、嫌いなこと、必要ないと思っていること、時間がかかりそうなことなどは、面倒だと思ってしまう。その中の一つが、歩くことや体を動かすことです。

現代は、車社会です。特に、公共交通機関の発達していない地方では、ほんとちょっとした距離でも、車で動いてしまう。
都会に住んでいる人より、田舎暮らしの人の方が運動不足、という変な現象にもなっています。

「疲れる、面倒くさい」と言わず…体を動かす習慣を身につけましょう。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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「ポジティブ思考は笑顔から」

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里岡美津奈

笑顔は作るものではなく、出すものだと思っています。人に喜んでもらいたいという気持ちが先にあり、それを無意識に表に出そうとして笑顔になるのです。とは言え、人間ですから、落ち込んでしまう時、辛くて気がふさぐ時、怒りを覚える時もあるでしょう。

でも、それは自分の捉え方で変わってくるものなのです。心と表情は切り離せないものですが、その心を作るのは自分の意識。
ネガティブなことでも、ポジティブに捉え方を変える。その手段が笑顔と言えます。

41歳の時に、乳癌を患いました。その時は、さすがに落ち込みました。でも、よく考えてみると、自分よりさらに厳しい人生を送っている人は大勢います。
そう考えると、自分はまだ恵まれていることに気付きます。謙虚に想像力を働かせることで、「これぐらいで済んでよかった」「命の大切さを学んだ」とポジティブに捉え、私は気持ちを整えることができたのです。

また笑顔は、今まで起きたネガティブなことと決別する手段でもあるのです。
過去には、戻りたくても戻れません。だったら、いい形で忘れて行く。
嫌な事は、笑顔で一瞬一瞬、決別する。次の一瞬一瞬を大切に生きる為に、また笑顔を出すのです。

「いつも笑っていなさいね」と言う母の言葉の意味は、そういうことだったと思っています。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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企業統治と株価

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 松本晃

アベノミクスは前例のない金融緩和から始まった。
当時ならば金融緩和を行えば自国の通貨は弱くなった。
一時はドルに対して70円台だった円は、
120円までの円安となった。

すると、輸出型の日本企業だけは業績を回復した。
いつもの事である。

超金余りの海外から日本に流入した金が、
株価の急上昇をもたらす。
そこで、日本企業の企業統治の異常な事が問題になった。

取締役の多くが執行を兼任している。
ダイバーシティには、ほとんど関心が無く、
取締役も日本人の男性だけ。
自己資本利益率(ROE)は欧米企業と比較して極端に低い。
儲かっても内部留保ばかりで株主に還元しないし、
また株主も、ほとんどモノを言わない。

今、企業統治(コーポレート・ガバナンス)を、しっかりやらないと
外国の投資家は、日本から逃げてしまう。
そこで、企業統治が叫ばれ、学識者を中心にして
まとめられた。

株価の上昇に乗り遅れて、
「しまった」と悔やんでいる人が乗り出すと、
決まって暴落が始まる・・・

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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「企業を蝕む熱意なき職場」

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西條都夫

米国企業は、一般に社員の意識調査に熱心だ。社員の不満が高まれば、優秀な人から順に会社を辞めて、大きな損失に繋がるからだ。
一方、日本は労働市場の流動性が低く、社員の離職率は高くない。だから経営者は働き手の心のありように鈍感だ。

社員が会社を辞めないことと、彼らが生き生きと仕事をしているかは、また別の話だ。
日本人は、受動的な真面目さはあっても、自ら積極的に仕事に向き合う姿勢に欠け、それが労働生産性の低さやイノベーション不足に帰結している。

処方箋はある。社員の意欲を最も左右するのは、直属の上司との関係だ。部下とよく話し、彼らの弱みではなく、彼らの強みに着目する上司がいれば、職場の意欲は目に見えて上がる。
マネージャーに適切な人を選び、部下の技量を高める工夫が企業には欠かせない。

こうした取り組みは、すぐに効果が上がるというものではない。だが、さぼれば、または経営者が無関心のままでは確実に組織の活力は減退し、業績に悪影響が出るだろう。
不摂生や運動不足を続ければ、いつかは重篤な生活習慣病に蝕まれる。それに似ている。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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魂の経営

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富士フィルムホールディングス会長、古森重隆

車が売れなくなった自動車メーカーはどうなるのか。  
鉄が売れなくなった鉄鋼メーカーはどうすればいいのか。  
我々は、まさにそうした事態…、本業消失の危機に直面していた。

私が社長に就任した2000年、 富士フィルムの主力事業だったカラーフィルムなどの 写真感光材料の売上がピークを迎えた。 そして、その翌年、創業以来、 その背中を、ずっと追い続けてきた巨人イーストマン・コダック社の売上を追い越したのだ。 私が入社した1960年代初めには、売上高で十数倍の差があったコダック。 そこから40年近くかけて、ようやくかつての巨人に追いついたのだ。  

日本でのシェアは約7割と圧倒していた。しかしビジネスの世界では、絶頂のときにこそ危機が忍び寄って来ているものだ。 その少し前から、カメラの世界では、デジタルカメラが急激な普及を見せ始めていた。 デジタルカメラの普及が意味するところは、写真フィルムが不要になるということである。実際に写真フィルム市場はその後、2000年をピークに縮小し始め、それは徐々に加速し、遂には年率20~30パーセントもの勢いで激烈に収縮していった。 そして10年後には、世界の総需要はかつての10分の1以下にまで落ち込んだ。

カラーフィルムなど写真感光材料は当時、富士フィルムの売上の6割、利益の3分の2を占めていた。 その市場のほとんどが、あっという間に消失したのである。 それまで会社のドル箱だった写真感光材料事業が、わずか4,5年で、赤字事業に転落したのである。そして、この創業以来の未曾有の危機を迎えたタイミングで、 私は社長を任されることになった。

少し時計の針を先に進めて2007年。
かつては約2700億円以上あった富士フィルムの写真フィルム事業の売上は、約750億と4分の1になっていた。 印画紙等を含めた写真事業全体でも、約6800億円が約3800億円に激減した。
しかしこの年、富士フィルムは、売上高2兆8468億円、 営業利益2073億円という、史上最高の数字を叩きだしたのである。 会社は、本業消失の危機を乗り越え、新たな道を進み始めたのだ。 この間におおなたをふるった改革が、実を結んだのである。

一つは、写真関連事業の構造改革である。 写真関連事業のリストラを含む大胆な構造改革を断行した。また、写真フィルム事業の構造改革を進める一方で、 今後成長が見込めると判断した分野には思い切った投資をした。
さらにまったく新たな事業を開拓していくことで、 かつての本業が消失していく事態をカバーしていったのだ。2012年、長年のライバルであったコダックは、米国連邦破産法11条の適用を申請した。2006年4月に開所した富士フィルム先進研究所には、一つのシンボルがある。ミネルバという女神と、ふくろうだ。

哲学者ヘーゲルは『法の哲学』の序文で、『ミネルバのふくろうは 黄昏に飛び立つ』という有名な言葉を記している。ローマ神話の女神ミネルバは、技術や戦の神であり、知性の擬人化と見なされた。ふくろうは、この女神の聖鳥である。一つの文明、一つの時代が終わるとき、ミネルバは、ふくろうを飛ばした。 それまでの時代がどういう世界であったのか、どうして終わってしまったのか、 ふくろうの大きな目で見させて総括させたのだ。

そして、その時代はこういう時代だったから、 次の時代はこういうふうに備えよう、と考えた。「インターネットの登場は、人類が言語を獲得して以来の大発明」つまり、何十年万年以来の大変化ということだ。 インターネットの登場により変化したことは数えきれない。
それにともなって、消失した産業や会社の数は、かつてないぼう大な数に及ぶ。それが、まだ現在も、そして、これからも続く。本業が消失するような大変化のときは、 自分のこだわりや、思い込み、しきたりや、 ルールといった重い荷物をすべて一旦捨てなければならない。 そうして、身軽にならなければ、時代の大きな変化という谷間を、飛び越すができないからだ。

「ミネルバのふくろうは黄昏に飛び立つ」一つの時代の終わりと、次の時代へとの大きな変革期に、今我々は立ち会っている。 時代の大きな変化に備えねば。

エンジンオイル、OEM仲間の経営塾より

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