渡部昇一氏の遺稿
認知症専門医の長谷川嘉哉
「75歳を過ぎて元気でいられるかどうかは、
欲しいものは少数の友達と安定した財産
知的生活とは、孤独と社交のバランス
昔読んで面白かった本、もう一度読み直しておきたい本は、
思い切って高価な版を買うことです。
それが老年の知的生活の支えになります
自分の生活に根ざした部分、内的生活が関与した部分は、
樹木のようにゆっくりとしか育たないのです
私は、樹木的な生活こそが本物の知的生活だと思います。
高層建築的業績は知的生産です。
「生活」と「生産」は同じではありません
夫婦で海外旅行をするなら六〇歳になる前、
現役の頃に、ものすごく忙しい時間を犠牲にして行くべきです
夫婦で四十代に行っていれば、きっと楽しいでしょう。
奥さんも、現役の亭主と一緒に行っているから嬉しいのです
無法な上司と意見が違っても
辞表を叩きつけることのできない会社員、
落選すると生活ができなくなるので、
信念をまげても選挙民に迎合する政治家、
国家や国民のためよりも
「天下り先」のことを考える役人──
これらはすべて頼るべき安定した私有財産がなく、
月給だけが頼りであるところからくるのです
エリザベス・アプルトンは金持ちの女性で、
大学の先生と結婚します。
彼女の財産をもとに夫妻は贅沢な生活をおくりますが、
後に息子が問題を起こします。
その時の息子の恨み言が私の印象に強く残りました。
それは「自分の父親はしょうもない絵をよく買っていた。
それなのに、自分が大学生の時、
ヨーロッパで勉強させてくれと言ったら
カネを出してくれなかった」という言葉です。
それは小説の中の何ということもないシーンです。
しかし、私は考えました。
親が死んで子供に遺産を残しても、
それは子供にとっては遅すぎるのです
老年になって大事なことは、成功より失敗しないこと
晩年の秀吉の衰えを如実に感じさせるのは、
第二次朝鮮出兵の時に、
九鬼水軍は役に立たないと言って出兵させなかったことです。
若い頃の秀吉なら、第一次出兵で唯一無事だった
九鬼水軍から多島海の危険性を聞き、
彼らの経験を高く買って、むしろ九鬼を
水軍の総大将に据えることすらしたかもしれません
一方、猛将でありながら、
節度ある晩年をおくり、名誉を保った人もいます。
それは伊達政宗です。
政宗は天下を狙える力量を持つほどの武将でしたが、
天下の大勢を判断して、関東には攻め上がりませんでした
叙勲に値するのは、命がけの仕事をする人々である
少数の友達と安定した財産、私有財産を持つことで
他人に媚びなくて済む、
成功より失敗しないこと…。
エンジンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾より