五木寛之
日本人は、明治維新以後、和魂洋才を旨として、
西洋の哲学や思想を、近代化の規範としてきた。
その結果、日本は科学・技術大国として成長をとげた。
しかしいま、これまでの洋才主義に陰りが出てきている。
もうこれまでの価値観だけでは、やっていけない。
明治維新以来の脱亜入欧の国のあり方、
西洋一辺倒あるいはアメリカ一辺倒のあり方を、
見直すことが求められている。
たとえばキリストは、30代で亡くなった。
若くして死んだキリストの宗教観は、
いわば青春の熱情が溢れている。
キリスト教は、青春の宗教だ。
西洋の文化に、一種の青春主義の香りがするのは、
このキリストの青春期の死と、大いに関係がある。
それに対し、ブッダは長生きをした。旅先で80歳で亡くなった。
30代の宗教家と、80代の宗教家では、神の観念や人間観が違って当然だ。
すでに日本という国は、戦後の青春期、繁栄期を終え、
下山の道を歩みはじめた。
これまでの青春主義は、下山の道のりには向かない。
しかも高齢化社会を迎え、国民も下山の道を歩みはじめている。
ブッダの思想の可能性を見直すべきだ。
医学や科学の進歩の恩恵で、人の寿命は100歳まで伸びる。
そういう大転換の時代を迎えているいま、
人間という生き物への価値観が追いついていない。
人生の生き方や、死生観が「人生50年」と考えられていたモノサシのままだ。
そこに、漠然とした不安が蔓延している。
100歳人生を生きるには、そもそも、これまで信じてきた
人生観や死生観の転換が求められる。
「人生100年」時代にふさわしい生き方や、人間性についての考え方を、
あらためて再構築し、新しい生き方、新しい哲学を打ち立てることが必要だ。
世界に先駆けて、日本人は、100歳人生を生きなければならない
入り口に立っている。
日本人は、あとにつづく国々に、どうすればいいかを、
指し示す役割がある。
国連の推計によると、2007年に日本で生まれた子供の半分は、
107歳以上生きることが予想されている。
「私たちはいま途方もない変化のただ中にいるが、
それに対して準備ができている人はほとんどいない。
その変化は、正しく理解した人には大きな恩恵をもたらす半面、
目を背けて準備を怠った人には不幸の種になる」』
もし仮に定年を60歳だとしたら、100歳までには40年もある。
人生の半分近くを余生として生きるにはあまりにも長すぎる。
年金の支給の支給開始年齢は毎年遅くなっているし、
医学の進歩により未来は長寿が約束されている。
そこで必要となってくるのが、「生涯現役」の考え方だ。
金銭的にも健康的にも精神的にも、現役で長く働けることが、長寿社会には必須だ。
そして精神面では、ある程度の年齢になって必要となってくるのが、仏教的な考え方。
仏教には「生老病死」という逃れられない苦しみがあると教えている。
「四苦」という、4つの苦しみを逃れる方法が「悟り」を得ることだ。
エンジンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾より
