坂口孝則

これからの時代を次のようなフレーズで捉えた。
これが、自分が属していない分野の知見も必要になってくる理由でもある。

《人生100年、会社10年》
ひとびとはこれから100歳まで生きるようになる。
しかし、会社というプロジェクトの寿命は10年と短くなっている。
一つの職業の寿命がひとびとの寿命よりも短くなったとき、
ビジネスパーソンは複数のスキルを身につけなければならなくなる。
さらに、一つの会社ではなく、複数のコミュニティに属し、
異なる発想を摂取しなければならない時代になっている。
いま属する業界だけではなく、積極的に他業界の情報収集が必要だ。

《つまらないβ主義》
かつて、「リーンスタートアップ」が流行した。
これは、商品を未完成の段階で市場に出し、
顧客からのフィードバックを受けながら改善していくものだ。
しかし、これだけ市場に参入する企業が多くなってくると、
むやみやたらに商品を発売してもうまくいかない。
顧客の声を得ることもできない。
撤退すらそんな速度で繰り返すので、
いつかは当てる多動力、出たとこ勝負力は重要だ。
せっかく多動力を発揮するなら、同時に、勝負する領域について
データを徹底的に調べ、仮説に基づいた未来予想をもって進むほうがいい。
少なくとも時代の流れに反していなければ、反応はある。
努力は比較的に報われる。

新規事業への参入時に、「既存の技術を応用したもの」「新規の技術を開発するもの」という作戦と、
「これまでの業界を攻める」「新たな業界を攻める」という作戦がある。
もっとも良いのは、「既存の技術を応用したもの」で、「新たな業界を攻める」ものだ。
成熟産業であればあるほど、イノベーションが進んでいないから、
新たな技術でそれまでの常識を覆せる可能性が高い。
その意味でも、他業界の動向は、ビジネスチャンス発想のきっかけになる。

《目指すは業界の枠にはまらない「何屋さんかわからない」仕事》
業界横断知識をもつことは、金儲けだけにはとどまらない。
これからの価値創造は、立脚点のふらふらした個人から生じることもある。
知が多様に広がっていく世界…違う言葉で「複雑系」と言ってもいい…においては、
ジャンルの横断、越境、溶解が必要だ。
まわりを見てみればいい。
現在、社会を切り取っている人は、一つだけの職業に当てはめられない。
科学者で、経営者で、アーティスト。写真家で、コンサルタントで、大道芸人。
会社員でありながら、マンガを販売し、社会についてリアルな経済状況を旅しながら語ったりする。
そんなハイブリットな知が求められている。

新商品創造にも、事業開発にも、異質なる観点が必要なのだ。
目指すは「業界の枠にはまらない何屋さんかわからない」仕事といっても言い過ぎではない。

東京都で民間初の中学校校長になった藤原和博氏の「仕事の広げ方」の話がある。
これからの稼ぎ方としては、1つの分野でプロになる(例えば、美容師や調理師)だけでなく、
もう1つの分野でプロになる(例えば、講演家や小説家)。
さらに、3つ目の分野でプロになる(例えば、芸術家や漫画家)と、
それはさらに希少価値が高まる。
そして、その3つの分野は離れていればいるほど(関連しなければしないほど)良い。
未来は予想もつかない速度で進化し続けている。
時代に遅れないためには、新しいことやモノに興味関心を持ち、変化することを恐れないこと。
そして、何事にも好奇心を持って当たること。
これからは、自分が属していない分野の知見を広げ、ジャンルの横断、越境、溶解を進化させ、
「業界の枠にはまらない何屋さんかわからない」仕事を目指すこと。
そして、すべてにおいて、異質で創造的な観点を持つ。

エンジンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾より