JALを再建した稲盛氏の右腕として活躍した大田嘉仁

企業経営をする上で最も大事なことは、

経営幹部に立派な人間性をもつ

すばらしいリーダーを据えることである。

どんな困難に直面しても逃げずに

真正面から取り組む勇気があって、

また部下や仲間を大切にする優しさをもっている。

さらに常に謙虚で努力を怠らない。

そういうリーダーでなければ

小さな部門さえまとめることはできない。

JALに着任し、会議に出席し、現場を訪問する中で、

JALには本当のリーダーと呼べる人間がいないことを

痛感していた。

それではいくら立派な再建計画を作っても、

達成できるはずはない。

また、上の立場の人間の意識が変わらないと、

部下の意識が変わるはずもない。

逆に、幹部の考え方が変われば、自ずと部下の考え方も変わる。

だから、どうしてもリーダー教育を

早急に始めなければならないと思っていた。

そこで、当初より意識改革推進準備室のメンバーに、

「大西社長を含め役員や主要な幹部社員を五十名ほど集めて、

週五回、一回三時間程度のリーダー教育を始めたい」と

伝えたのだが、

そもそもリーダー教育というコンセプトを

納得していなかったので、

最初は「絶対無理だ」と反対していた。

それでも私は、彼らに私の考えをまとめて

報告書を作ってほしいと頼んだ。

しかし、返ってくる報告書のタイトルは

マネジメント教育になっていた。

「そうじゃない。 私はリーダー教育のプログラムを

作ろうと思っているのだ」と指摘しても、

返ってきた報告書にはまたマネジメント教育と書かれていた。

おそらく彼らは当初リーダーとマネージャーが

同じものだと理解していたのだろう。

これは無理もない。

普通の大企業でも管理職になったらマネジメント教育を受ける。

そしてコンプライアンスの重要性、人事評価の方法、

目標数値の設定の仕方などを学ぶ。

それが一般的だから、リーダー教育というと

マネジメント教育のことだと考えてしまったのだ。

準備室のメンバーは

「大田さんの言っているリーダー教育を

一般的にはマネジメント教育というのだけれど、

たぶん大田さんは知らないのだな。

京セラの人はマネジメント教育を

リーダー教育と呼んでいるのだろう」

と解釈したのかもしれない。

そこで私はリーダーとマネージャーの違いを

繰り返し説明した。

「部下を管理するマネジメントについては、

あなたたちはよく分かっているし、

優秀かもしれない。

しかし、今JALに必要なのは

部下をまとめ同じ目標に向けて

引っ張っていけるリーダーを育てることなんだ。

優秀なマネージャーであれば、

困難に遭遇すれば、その迂回策を考えるだろう。

うまくいかなかったら、その言い訳を探して、

責任逃れをするだろう。

そんなマネージャーばかりだから倒産したんだ。

再建を成功させるには、

どんな困難にぶち当たっても

あきらめずにやり遂げようとする、

一つの目標に向かって部下を鼓舞して

なんとかまとめていこうと考える、

そんなリーダーが必要なんだ。

これからはそのようなリーダーを育てなくてはいけない」

そのような話をして

リーダー教育の必要性をどうにか理解してもらった。

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