永瀬隼介

ジャーナリストと起業家、投資家には、共通点がある。

それは、いずれも「一発狙い」だということ。

「一発」という表現が適切でなければ、

「ホームラン狙い」とでも言うべきか。

ジャーナリストはスクープを狙う、

起業家は大きな事業を企てる、

そして投資家は大化け株を探す。

かの天才コピーライター、デイヴィッド・オグルヴィは、

「バントをするな、場外ホームランを狙え」と言った。

情報産業では、「大きく考える」ことが富をもたらす秘訣だ。

とは言いながら、「大きなこと」には

常にリスクがつきまとうのも事実。

広げられた風呂敷が本物なのか、

関わっている人間はまっとうな人間なのか、

急激に集まるカネは引く時もはやい…などなど。

「夢よもう一度、ってあがく男はみっともないもんねえ。

でも──」

意味ありげな一瞥をくれ、しゃあしゃあと語る。

「ゴージャスな夢を味わったことのない男は

もっとみじめだけど」

「カネと自由は同義だ。カネさえあれば、

上意下達の愚かな組織に属することも、

間抜けな他人に頭を下げる必要もない。

おれは本物の自由が欲しいからカネを稼ぐ」

「金持ちから儲けようと考えるな。

貧乏人から儲ける方がずっとラクで効率的、

という厳然たる事実を胸に刻め。」

「世間は夢と希望にあふれた大風呂敷を持て囃すが、

広げることなら誰でもできる。

要はきっちり畳めるか、否か、だ」

「ほら、“買いは家まで、売りは命まで”と言うじゃない」

知らない。初めて聞いた。

マリアは冷笑し、説明する。

「株価千円の株を買った場合、どんなに値下がりしても

千円の損で済むよね。

しかし、こと空売りを仕掛けた場合、天井知らずでしょ。

株価千円は理論上、一万円にも十万円にも上昇することがある。

つまり、いったん上昇に転じた場合、

被る損は際限がないってことよ」

「この世にはどんな因縁が潜んでいるのか、誰にも分からない。

想定外のことも、いともたやすく起こり得る。

ここは先入観を極力排して、

虚心坦懐に調査に当たった方がいい」

「真面目な働き者だったけど、莫大な借金をしょっちまって、

首くくって死んだんだ」

ぐっと息を呑む音がした。兵藤が沈痛な面持ちだ。

「幼馴染の豆腐屋に頼まれて、

銀行融資の保証人になったはいいが、

夜逃げされちまってな。あとは坂道を転がるがごとく、だ」

「人間、情がいちばんなんだよっ、毎日コツコツ働いて、

人様に喜んでもらえることが何より大事なんだっ」

カネはカネを呼ぶ。太いカネほど吸い寄せるカネも多くなる

諦めずに歩けば何かに当たる、諦めた時点で可能性はゼロになる

「おまえにはカネを稼ぐべき理由があった。

そういう人間は実に有用だ。

決死の覚悟でがむしゃらに、あとさき考えずに働くからな」

「おれは元ブンヤの物書きだ。

どこまでいっても物書きだ。憶えとけ」

カネさえあればこの世に不可能なことはない、

と信じた少年がいる。

貧しく孤独な少年は悪の修羅道をひた走り、

莫大なカネを稼ぎ、目も眩む万能感に浸った。

望むことはなんでもできた。なんでも買えた。

もっとも大切なものを除けば、だが

エンシンオイル、メーカー、OEM仲間の経営塾